第23話 璋子様、私です。義清です

すなわち大蛇のあたまとなってそこより出で来、全身をあらわしながら苦しげに床を這って行く、太刀を受けたところから大量の血が流れ出していた。更にひもや打ち衣に変じていた中小の蛇たちも大蛇を追って逃れて行った。ついに単衣だけの姿となった璋子がまるでみずからが切られたように苦しんでいる。「璋子様、お気を確かに!」大剣を置いて身を寄せながら陵王が喝を入れ、璋子の手を握った。その手から生気がつたわりくるようで徐々に身が楽になって行く。「あたりを御覧ぜよ」陵王の面を取りながら男が璋子の視線をいざなった。坊主頭のその男にどこか見覚えがあるが誰であったかなかなか思い出せない。廻りを見ればいつの間にか内裏は消失していずことも知れぬ暗所に変わっている。その暗闇のなかで6つの炎が2人を取り囲むように揺れていた。その炎のなかから人のうめき声が聞こえて来る。「あなや、おぞしきに」男の身にすがりながらおびえる璋子に「焼かるべきものなり。六道の業火なればなり」と男がさとす。年のころ6、70、誰かに似ていた。必死になって思い出だそうとする璋子の目の前で魔法のようにその男の衣装が変わって行く。すなわち派手な陵王のそれから簡素な法師姿のそれへと。ひとなつこい笑顔を浮かべながら「璋子様、私です。義清です」と明かして見せる。「義清?…こはいかに、いかにかく古りたるぞ」浦島のごときいきなりの老変が解せない璋子に「これはしたり。いかにもわれ未来世よりまかり来せばかく古るびてなむ。御歌を拝し奉り今は西行となむ申しはべるなり。

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