第20話 得意満面の璋子
思わず耳をふさぎ絶叫しそうになった時、はたしてそれを救うかのように居並ぶ公卿・上達部らから声がかかる。「五節の舞姫出でずんば、はた誰やかないたる」「あてきわむ方こそ。宮様となり」と、あろうことかこの中宮に、この璋子自身に舞台にあがって舞えと云うのだった。不敬のきわみというか、よもやの展開に、ついにまなじりを決すかと思われた璋子だったが、しかしそんな様子はまったく見られない。どころか、直前までの懊悩もどこへやら口もとに笑みさえ浮かべて今にも立ちそうな気配を見せている。それを察してか「いざ、舞はさせたまえ」「いざ、いざ」と一同で声を合わせるにいたる。やおら璋子は立ちあがり御座より降り来たって、檜扇を構えながら舞台へとあがって行った。最前止まりそうだったものの師たちの演奏も稀有の舞い手を得てその勢いを取りもどす。「少女子(おとめご)が少女(おとめ)さびすも。唐玉を手元(たもと)にまきて、少女さびすも」大歌を歌う拍子(男の主唱者)の声もあわせおこり、その歌詞の内容に染まったかのごとく璋子は若々しげに五節の舞を舞っていく。過去何度も舞を見知ったせいかそれとも人には見せぬ隠れた才能でもあったものか、プロの白拍子にさえ負けぬ見事な手さばき足さばき、その踊りぶりであった。つまずきなどするものかは、緋の長袴をまわし蹴るがごとくサッとさばいて見せるなど、その粋で優雅なことこの上ない。はからずも讃嘆の声があちらこちらからまき起こった。「美(は)しきかな、美しきかな」「天人とてえやは舞う」とその美を讃え、「あな尊(とうと)」「のちなきこととなむ」などと前代未聞の中宮の舞をほめそやす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます