第19話 五節の舞い

‘六道の桎梏とはいかならむ。そはおのが身そのもののごとし。さればいかが、誰か身より離るる。さるほどに蛇ぞ憑く…’


 陰暦11月、新嘗の五穀を具した舞台をいとやんごとなき人々が固唾を飲んで見守っている。はや舞楽の音は雅楽寮のものの師たちによって奏でられ、あとは舞姫たちの登場を待つばかりだ。しかしいかなる指図の不手際かいつまで待っても5人の舞姫はあらわれない。一座の目は自然上座の中宮へとそそがれた。舞姫の手配は中宮の裁量だったからである。何事かとばかり中宮はお付きの女房たちに目を走らせるが皆あらぬ方へと目をそむけてしまう。上臈の女房堀河でさえそうだった。考えられぬ珍事の出来に、何を処すべくもなく、ただうろたえるばかりの三界一の美后、中宮璋子。過去いずれの新嘗祭に於いてかかる失態があっただろうか。しかしとは云え、起きてしまったこの不始末は本来自分にではなく、実際には舞姫献上者たちや女房どもにその責を負わすべきを、今はなぜか我が身ひとつの咎としか思えない璋子だった。いつかどこかで同じような咎を犯し、尋常ならざる焦りと恐怖を覚えたことがあるのだが、それが何だったかはなかなか思い出せない。一座のなかに1人ぽつねんと放り置かれたような、まるで悪夢のただなかにいるような塩梅ではあった。心の中で自分を糾弾する声がする。「不貞の君」「さかり女(め)」「色々しきは、はて…」などとその声が高まり来、やがて堪えがたいほどに笑い声がひびきわたった。

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