第17話 娘を蹴り落とす義清

源氏物語の八宮のごとき男たちがいたということだろう。すれば妻春子にとっても受くべき悲運だったと云えなくもないが、それにしても古語で云う「いかが」と云うほかはない義清の仕儀ではあった。天竺のお釈迦様に於いても一見まったく同じような家族への無情のいたりだったのだが、しかしそのおかげで実に無数の、我々衆生が救われている。はたして彼義清、しこうして西行法師におかれては、いかなる衆生済度への心意気だったのだろうか。私ごとき凡夫において、これ以上おもんばかることは差し控えたい…。

「ととさま」文袋をのぞく義清のもとに幼い花子が駆け寄って来た。無邪気に袋に手をかけて引っ張るとはからずも袋が落ちて中宮のおぐしが地に落ちた。思わず娘を突き飛ばしおぐしをもとに戻す義清、花子が大声をあげて泣き出した。春子が義清をにらみつける。北面の武士一の手練れ(?)佐藤義清も、法師西行もあるものか。おそろしい、ただ妻の目がおそろしい。人倫にそむく行為を自分は為そうとしているのではないか、いや、この道こそ…と唇を真一文字にむすぶがしかし、今は謎の言葉、クワンティエンの苛みが彼の心を襲いつづけもする。大きくためいきをひとつついて娘を抱きしめ、あやまりつづける義清だった…。

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