第14話 比類なき妃から奈落へと
権力者であろうが何であろうがすべては自分女がつくりだした子だとどこかで思うなら、主体性の如何ははたしてどちらにあるのかさえわからなくなってしまう。男にみずからを愛させ子を結実させる、自覚せずともそこに喜びと主体性を見ていたのなら人形の家のノラとは云いがたい。まして実家の閑院流一族からは「懐妊?でかした!」ともろ手をあげて喜ばれるなら況やのことである。しかも同腹で七人の皇子皇女の生母ともなると、これはおそらく記録ではあるまいか。畢竟そのぶんだけ璋子の自信と傲りは強まったにちがいない。歴代王朝の后としては‘比類のないほど?’と勘ぐりたくもなる。世界は自分を中心にまわる、とまでは云わないがとにかく傲り、輝いていただろう。ところがこれが得子出来とともに一気に、かつ劇的に崩れ去るのだ。いやでも璋子は自分の生き方を客観的にかえりみることになり、なおかつ皇子皇女たちの未来に不安をいだくことともなる。はなはだ語弊があるが、生んだ皇子たちの数の分だけ‘散らかしてしまった’という心根にさえなるかも知れない。自分ひとりだけの失脚ならともかく、得子に皇子誕生で崇徳はじめ自分の皇子皇女らすべてに、不安の星をいだかせてしまったという、背負いきれないほどの負担を感じはしなかったろうか。そんな折り「そよ、あの者、義清…」と思い至ったのかも知れない。徳大寺実家に帰った折りの歌サロンなどでなら非公式に義清と面つきあわせて「人の世」を語ることもあったのに違いない。おそらく未だ青年らしい哲学的にすぎるきらいはあったろうがその博識と感性、そして出家への気概にはいたく感化されただろう。
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