第6話 桜吹雪の下を駆け抜ける義清

「義清、汝の大願成就を願う。これは心付けじゃ」そして更に「まろはただに桜花であった。色衰えて人の愛でざれば存うは難し。後の世とても汝に相見てむ。今は罷りね、義清…いや、法師様」と云ってもったいなくも義清に合掌拝礼した。余りのことに義清が返礼しようとするが「義清殿、院の御目に止まっては、今はただに…」と堀河がその背を押す。人が噂する阿漕の浦とも思える現場を院に見られることはやはりはばかられた。院の側の性の乱脈は一切問われず、一世一代の「聖俗合体」と璋子が期した逢瀬だとしても、それは絶対に、且つ永遠に認められることはないからだ。義清は文袋を押戴いて懸命の一言を云い残した。 

「いずれの世にか忘れ聞こえむ(いつの世も決して忘れません)。宮様、いや、璋子様!おさらばでおじゃりまする!」北面の武士として最後の義清の姿。散る花の下御庭を駆け抜けて行った。

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