第4話 まろも男なら出家したし

主の意を悟った堀河が委細ためらわず仰せの通りにすると、上着打ち衣等十二単を地味な色に抑えた璋子の全身が現れた。義清の出家に合わせたとも思うその姿は40過ぎとはいえなお美しく、伏し目の義清の視線を捉えて離さない。彼の和泉式部の一首「(牛車の中から袖だけを)飾さじと誰か思はむ…」どころか掟破りの(?)全身露出だった。思う存分見よという、果してそれは俗世からの餞別ででもあったろうか、義清の視線に身を任せつつ何事かを紙に書きつけた。

「あな、いみじう散り交う花かな、美しきに」ややあって顔を上げた璋子が、花吹雪を見ていまさらのように絶句する。あたかも自らが出家するかの如く散る花に何かを見ているようだ。檜扇を口元に翳しもせず「義清、人の真のあり様は如何あるべきや。身の桎梏、立場のそれ…あなや、まろも男なら、許さるべき身なら出家して、漂泊などもしてみたし。義清、汝こそともしけれ。ふふふ」と述懐する璋子に「お戯れを。帝始め皇子、皇女様方の御生母であらせらるる宮様こそ、万人にともしかるべきお方、まろの捨身に何をか見べき」と義清は応ずる他なかった、蓋し中宮の本音と思いつつもである。しかしその言葉に現しに返ったかの如く一つ大きくため息をついて「そよ、皇子らのことじゃ。まろは政(まつりごと)は云えぬが、崇徳始めまろの子らは決して良き目を見ぬであろう。嬰児のまま逝った通仁、君仁始めまろは皇子らが悲しゅうてならぬ。相済まぬ。義清、そなたは和歌のみか仏道にも秀でたるゆえ、どうか皇子らを見捨てず、後の彼岸へと導いておくれ」と今度はひたすら母の立場に立って義清に、いや後の西行法師に璋子は頼み込むのだった。

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