第2話 璋子は不貞の君?
その返答ぶりに檜扇で口もとを隠しながら忍び笑いする中宮の様子が御簾越しにも察せられる。何ゆえのことだろうか。「まろの煩いなどそもなにゆえ汝(な)に知れるや、のう堀河」とお付きの女房堀河に水を向ける中宮璋子。権大納言藤原公実の末娘で白河上皇の養女に出され、のちその孫の鳥羽天皇の中宮となって、帝との間に五男二女、7人の皇子皇女(みこひめみこ)をもうけている。彼の一大乱、保元の乱の誘い水となった女性である。史家によっては悪女とも、また不貞の君とも評されがちだが、はたして眼前にかしこむ佐藤義清こと後の西行法師が、ああまで傾倒した史実を踏まえれば、強ちそれを鵜呑みには出来ず、真実は必ずや中身のあった女性と思われ、むしろ彼女を巡っての白河・鳥羽による(即ち祖父と孫による)欲念と面子の争い、その犠牲者と見るべきだろう。人形のごとき美(は)しき女(め)の童(わらわ)、引いては成長して後の美貌をも見込まれて、世の覇王白河に溺愛されながら育った璋子は、いわば悲しみを知らない「幸福の王子」のようであり、のみならず、その‘養父’白河によって性愛をも全き自然のうちに摺り込まれた身であれば、その妖艶のほどは、男たちにとって抜き差しならぬものとなっていたのである。それほどの彼女ではあっても年令ゆえの翳りはやはり否めず、鳥羽上皇に接近を図る藤原北家の家成が送った若き得子(なりこ)に、今は完全に院の寵愛を奪われていた。
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