第11話 黒鉄奪還戦 終幕

「待ちやがれってんだ!」

「待てと言われて、待った人が未だかつていましたかねぇ!」


プログラムのせいか、男を狙わず夜猫だけをまっすぐ狙ってくる機械たちを蹴り飛ばしたり、電動ドリルで粉砕したりしながら男を追いかける夜猫。

機体に乗ってもおらず、生身で追いかける夜猫だが、男の足が遅いのもあり、機械を相手にしながらもその差は縮まっていく。

やがて、行き止まりのところまで追い詰める夜猫。その背後に機械はいない。


「……くそっ」

「どうやって、落とし前をつけようか。私たちの家族を連れ去ってくれたお前には」

「わ、ワタクシはただ……!」


部屋に残った、星雲、海月。それから敵対している人型の機械、カイ。


「猫に手を出すのは許さない」


静かな怒りの声とともに、きれいな軌道で蹴り上げられたカイは、夜猫にやられた胸元の傷跡から更に装甲の欠片をまき散らしながら壁の方へと吹き飛んだ。


「黒、てめェ起きるのがおせェんだよ!」

「無事で良かったよー!」


蹴り飛ばした張本人、黒鉄を見て歓喜の声をあげる星雲と海月。


「悪い、いろいろと迷惑をかけた」

「迷惑ではねェよ。ひっさびさにジェット機にも乗れたしなァ」

「ちなみに猫はどこにいったんだ?」

「ちょっと前に逃げていったおっさん追っかけてった。そろそろタコ殴りにでもしてんだろォ」

「ということは、俺らはこいつを片付けてそっちにいけばいいんだな?」

「そういうことだろうなァ」

「こいつ硬いんなら、猫が穴開けた部分重点的に撃てばいいんじゃん?」


海月がそう言うと、轟音と閃光と一緒にまたまた吹き飛ぶカイ。


「火力だけなら、猫のドリルにも劣らないもんね」


本来近距離で命中させるものではないものを、あっさりと命中させて得意気に鼻をならす海月。

仲間の人間らしくなさを見た、黒鉄と星雲は自分のことを棚に上げて呆れた目線をおくる。


「……ジジッ。……相変わらず、乱暴だなぁ。海月は」


雑音とノイズが数秒混じった機械音声がその場に響く。

未だ戦闘態勢だった彼らの姿勢を、一瞬で緩めたその声は。


「へ? 兄ちゃん?」


一番あっけにとられた海月。数秒後、その顔に苦々しい笑みが広がる。

海月の頭の中に浮かんだのは、

『多分上書きデータ適当にぶっ壊したら出てくるかもよ』

そんな彼らの優秀で策士で憎たらしい整備士。


「……猫め」


こらえきれない笑いとともに、顔を覆った海月。

そのとなりでやれやれというように武器をおろした星雲と、構えをとく黒鉄。


「兄ちゃんっ」


機械ところへ飛び込む海月。海月は実家から兵として追い出されているが、彼らの仲は悪くなかったらしい。


「大きくなったねぇ、海月。君は幸せに生きるんだよ」


そう言って残った機械の腕で、優しく海月の頭をなでるカイ。

大分砕け散っていたその体の持ち主は、海月の頭に手を置いたまま動きを止めた。


一方夜猫は。


「わ、ワタクシはただ、家族と一緒にいたかっただけなんです!」

「まぁ、そんなとこだろうな」

「へっ」


切羽詰まった男の必死の叫びを、あっさりと肯定する夜猫。


「家族といっしょにいたいから死んだ後の海月の兄の記憶データ化なんてめんどくさいことして、たっかい機械にぶち込んだんだろ。まぁ上手くいかなかっただろうがな」


私もできないし、しないよ。そう呆れたようにあざ笑う夜猫。


「海月のこともなんだかんだ心配だからドローン飛ばしてまで見に来てたんだろ」

「……気持ち悪いから壊してたけどな」


夜猫の目はいい。よく来る偵察用のドローンにかいてあるロゴがミナモ電工と書いてあることが多いこと。それから、無いに等しくなっている海月の名字がミナモであることには気づいていた。

夜猫はそれだけを言うと、男に近づき一発だけ手刀を打ち込み踵を返した。


「おっおい」

「悪いが娘のことを気に掛ける親父は嫌いじゃないんだ。死にたかったらそこら辺の機械にでもやられろ。あとは知らないよ、もうドローン飛ばして来ないでね」


ミナモ電工のビルに向かって歩き出す夜猫。

優しいというわけではない。途中からこの男の動機に気付き、共感できる部分があったから見逃してやっていただけ。


「猫、あいつは?」

「悪い、逃がした」

「そう」

「ちなみに、なんで俺のことを心配しなかったんだ?」

「黒は首根っこ引っ掴まれただけじゃ気絶しないだろ」

「……」


こうして彼らは、仲間が無事であるという彼らの日常に戻っていく。

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生き残り達の相棒は滅びを知らない 白昼夢茶々猫 @hiruneko22

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