第6話 黒鉄奪還戦 戦闘準備

「星雲! まだ見えてるか」


 夜猫の声がするも、いつも夜猫が乗り回している機体のエンジン音ではない音に星雲が振り返る。

 夜猫の乗ってきた機体を見ると、緊急時なのがわかっていつつもうれしくてたまらないといったような顔をする星雲。


「そいつは!」

「悪いけど当時最新式のじゃないよ、それより2型古いやつ。操作は足ペダル、あと武器はこいつね。いくつか改造しておいたけど使い勝手は変わんないと思う。バッテリーは念をいれて3つ積んだ。あとは? まだなにかいる? 確認は?」


 普段淡々としゃべる夜猫の初めて見るほどの早口に、星雲も緩んだ頬を引き締めながら話を聞く。


「もう十分だ、確認もいらねェ。俺らの優秀な整備士が全力でやったんだろォ」

「行ってきて。発信機組み込んだからすぐ追いかける。支援物資も絶対届ける。だから……」


 そこで息を切らす夜猫。それまでほとんど息継ぎなしでまくし立てたのだからおかしくもない。


「わかった。少しは息しやがれ」


 人相が悪くも、いつも人の話は真面目に聞く星雲は、今も真剣な目でうなずくと片手を夜猫の頭におき、目線を合わせる。


「俺を誰だと思ってるんだァ? わかってんならそんな顔すんじゃねェ」


 夜猫本人も気づかずに濡れていた頬に倉庫の埃やらなにやらがくっついて、すっかり黒ずんでいた頬を、星雲は自分のジャケットの袖でふいてやる。


「行ってくる」

「……うん。行ってらっしゃい」


「黒鉄、無事じゃなかったらぶっ飛ばしてやる」


 派手なエンジン音を鳴らした星雲はジェット機の上で、


「間に合わせる。生きてろ、黒鉄」


 夜猫は砦に向かって走り出しながら。

 そうしてその頃、夜猫の滅多にない怒鳴り声で渋々といったかんじだが、それでも起きてきた海月と変わらずのほほんとした顔できびきびと動く風歌で砦の解体作業は進んでいた。

 実は夜猫たちのいる砦は組み立て式で、場所によって一階建てにしたり、二階建てにしたり、果てはビルのように七階建てに組み立てたりしている。

 ただ、そもそも砦がなんだったかというと。


「夜猫さん、遅いですよ。あとは組み立てるだけです」


 すっかり板材へとばらされた部屋の数々。ちなみに彼らの使っている家具は廃材を適当につなげたものや、折り畳み式のものがほとんど。

 折り畳み式のものは持っていくが、原料が廃材のものは、その場に置いていくことが多い。どうせ錆びて朽ち果てそのうち地へ還る。


「わかった。すぐやるから手伝って」


 ボルトとナット、それからスパナを体中のポケットから取り出す夜猫。

 普段からそんなにいれて持ち歩いていては重くないのだろうか。

 眠そうな海月は、組み立てている途中の板材が倒れないよう、人の字のように、板材にもたれかかって支えているが、その目は白目を向いており、


「ちゃんと支えててよ」


 と夜猫にスパナで軽く叩かれている。

 対して風歌は、きちんと腕まくりをし、ちょっと嬉しそうに口角をあげながら、ここ押さえとけばいいですかー、あーうんそー、とかいう会話になっているのかわからない会話を夜猫とくり広げ、楽しそうに手伝いをしている。

 普段は、体力と筋力お化けの主力戦闘組の二人が手伝ってさくさくと終わらせてしまうため、風歌は家具の手入れなどを寂しそうにしていることが多い。

 故に、念願のお手伝いができてうれしいのだろう。

 夜猫は、口にボルトを咥え、素早いスピードでスパナを操りつつ横目でうきうきな風歌の様子を見て、普段からもうちょっと頼っとけばよかったかな……などと、あまりにもご機嫌な様子をみて思った。

 うっきうきな風歌だったけれど、今はそれどころじゃない、と頭を振って顔を引き締める。

 変わらず横目で眺めていた夜猫は、その百面相にボルトを吹き出しそうになり、慌てていた。


 大事な仲間が一人いない。

 そんな状況でも誰もが慌てていないのは。

 互いの技術への信頼。それから、まだ黒鉄は、死んでいないから。

 死んでいなければ、まだ会うことはできる。まだ会えたら、その時は絶対に。

 ”どうにかする”のだ。

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