第5話 戦闘後の後始末【後編】
「おせェ」
黒鉄のいう場所に夜猫たちがいけばすっごく不機嫌そうな顔をした星雲が腕組みをして待っていた。
「ごめんごめん」
「なにを優先的に集めればいいんだ?」
「バッテリー、あと原型をとどめている武器があればそれも。硬いやつの装甲とかは当然集めて」
「武器以外はいつもどおりか」
「なんだァ? また改造でもしてくれんのか」
「古くなってきただろ」
ただの整備だよ、と呟きながら夜猫は先ほどまで戦場だったその場所から、機械の残骸をあさりはじめる。
めぼしいものが見つかれば、それを先ほどまで夜猫が乗り回していた機体の後ろにつなげた貨物列車のような箱状の乗り物に放り投げていく。
「なぁ、猫ー。これって原型とどめてるうちにはいるのかァ?」
いつのまにか結構遠くまでいっていた星雲から、大声がとぶ。
「あー? はいるはいる」
結構離れているのにもかかわらず、目をすがめて星雲のほうをみたあと、すぐに自分の足元にある鉄くずに興味をうつす。
「猫、これは」
しばらく、無言かつ真剣な目で自らの足元にある部品をあさっていた黒鉄が疑問をとばし、夜猫はその方角を振り返った瞬間、限界まで目を見開いた。
「黒鉄、後ろ!」
「なんだァ!?」
夜猫のめったにない緊迫した声に、遠くにいた星雲までも反応する。
「っ?」
あちこちに散らばる機材に足をとられながら、黒鉄のほうに駆け寄ろうとする夜猫。
ぐらつきつつも、すばやく振り返った黒鉄は、腰に下げていた旧式の銃を引き抜く。
黒鉄の後方から、エンジン音を立てずに迫ってきた一機のドローン型機体は、思っていたよりもすばしっこく、黒鉄の撃った弾を避けていく。
「黒鉄、落ち着け」
「っ!」
カン!
咄嗟に上体をそらした黒鉄の頬をかすめ、地面の機体を吹き散らしたレーザーに黒鉄は、顔をゆがめる。
「夜猫、来るな!」
「ばか!」
黒鉄が夜猫を気遣った隙に至近距離まで来ていたドローン型機体の爪が突き刺さる。首を一周し、しっかりと掴んだかぎ爪に焦ったような顔をしながら、とうとうその体は宙に浮く。
「ばかあほまぬけ!」
本人よりも焦っているのではないかという夜猫は、何度も鉄くずで足をすべらせながら、普段工具よりも殴打武具として使っているのではと疑われるバールを投げつけようとするも、ドローン型機体が黒鉄の体を見せつけるように揺らしてくるせいで何もできない。ただ、普段は眠そうにしているその瞳にうっすらと涙の膜を作りながら黒鉄を罵倒する。
「星雲!」
そんな彼らをあざ笑うように、ドローン型機体からレーザーが放たれる。
狙いは夜猫。夜猫の足元は特に機材が多く、回避行動をとれそうにない。けれど、夜猫は自身の視界外、黒鉄の叫びを信じて、機材の間に体を鎮める。
「ぅおらァ!」
ガィン!! ……ィィィィン。
金属を強く叩いた音がして、余韻が響く。
夜猫の後方から、機材を跳ね飛ばして、悪い足場など気にせずに走り寄ってきていた星雲がそこら辺で拾った、もと敵機体の装甲だと思われる鉄板でレーザーを跳ね飛ばしていた。
「もう、お前らのこと人間だって信じない」
レーザーを防げるようにできている装甲とはいえ、それを受けて吹き飛ばずにいれることも、鉄板をもったままでいられるのも意味がわからない。
夜猫は呆れたように、肩をすくめると、今のレーザー攻撃の合間に黒鉄をつれていこうとするドローン型機体を睨みながら星雲を引っ張って駆けだす。
「おォい!? 何逃げようとして」
「じゃあ、星雲はここであいつ見てて」
そう言って夜猫は、また、何回かつまずきながら、全速力で自らの機体に駆け寄り、爆音をならしながら、エンジンを全開にする。
夜猫がなにかをしようとしていると悟ったのか、その後ろ姿にまたレーザーが飛ぶが。
「それはさせねェよッ!」
いつもよりさらにガラの悪い叫びでレーザーを弾き飛ばす星雲。
景色が見えているのが不思議な速さで砦に戻った夜猫は、機体がまだ止まりきっていないうちに機体の後ろからいくつか部品を取り出すと、機体から砦の二階部分の窓に向かって跳ぶ。
なんなく窓枠の上側をつかんで中に入ると、自らの自室に向かって走りながら叫ぶ。
「海月起きろ! ふー、解体準備! 移動するぞ!」
「えっ、なにかあったんですか? 黒鉄さんと星雲さんは」
「黒鉄が攻撃された、星雲に追っかけさせる。戦争するよ」
部品を抱えているため、ドアを足で開ける夜猫。
何事かと二階を掃除していたであろう風歌が見ていたが、いつもはそういったことにうるさい風歌も夜猫の焦る姿を見て口をつぐんだ。
ドアを開けたままの夜猫の部屋から、物音が何回かしたあと、右手に金槌、左手に二丁拳銃を抱えた夜猫はまた、窓に向かって駆け出すとそのまま飛び降りる。
「ふー、いろいろよろしく!」
その声のする間も、だんだん声が遠くなっていく。
「……夜猫さん、黒鉄さんと星雲さんのこと人間じゃない人間じゃないっていってますけど、この砦のなかに人間らしいひとなんていないじゃないですか……」
だんっ! という落下音に風歌はたまらずどんより曇っているだろう、天に向かってため息をついた。
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