第4話 戦闘後の後始末【前編】
「おい、終わったぞ夜猫。夜猫? どこにいる?」
いつも戦闘後はひっそりとしている砦の中に黒鉄の声が響く。普段低い彼の声は会話の時は埋もれやすいのに、静かなところでは妙に響くのだから不思議なものだ。
「あい? 終わった? 予想より早いねぇ」
夜猫は、『夜猫の部屋』『ノック忘れたら許さないから』とかくかくした文字の刻まれたプレートのかかる扉からひょこっと顔を出す。
「星雲は? 一緒じゃないのか」
「どうせ、猫にこき使われるんだろォってぼやいて待ってる」
「妙に物まねが上手いね。はぁ、それにしても人聞きの悪い」
「事実だろ」
「うるっさい」
顔だけ出していた夜猫は何かの作業の途中だったようで、一度自室に引っ込むと、なにかを部屋の中にぶん投げるガチャっという音がした。恐らく、なにかの修理でもしていたのだろう。とすると、ぶん投げたのは工具だろうか。
「いやぁ、今回は大量だねぇ」
「……手がかりも、少しは見つかるといいんだがな」
「そういやぁ、黒鉄は見つかってほしいのか?」
彼らが、時折物騒ながらものんびりと過ごしている日常の中で、それでも怯えているものがある。
いつになったら。
いつになったら、自分らを襲う機体はいなくなるのか。
今回のような大規模な襲撃にあったことも一度や二度ではなく、いつか敵側も資源はつきるはずだという、希望的観測に頼るのはつらいものがある。
それに。
時折混ざる、新種の機体。
そのせいで、彼らはまだ、機体側に与する人間がいるのではないかと思っている。まるで大将のようにいくつもの板材で機体を補強し、チェーンソーなどの強力な武器を持った機体。たまに遭遇するそれらには、毎度撃退はしているものの、仲間の怪我や砦の破壊なども引き起こされている。
杞憂で終わればいい。だけど、なぜ、幾度戦っても終わらない?
「どういうことだ?」
数秒、いや十数秒くらいはたっただろうか。長めの沈黙のあとで黒鉄が口を開いた。
「もしも、の話。手がかりが見つかったらどうするかっていう。今まででも、仮定を立てられそうなものはいくつも見つかってるけど」
いつも無気力そうな顔でどこかを眺めている夜猫が、意志をもって黒鉄を見つめた。
「……は」
疑問形にもならないような吐息とも呼べないような声が黒鉄から発せられる。
「ずっと戦っても終わらない。私たちも物資をはぎ取ってるのにわき続ける機体。その原因がわかったところでさ。それを解決するのかしないのか。人間の仕業なら、そいつのとこにいってぶん殴るとかさ。なんかすごい知能をもった機体が統率してるとかだったら、それ壊しに行くとかさ。やんのかって話」
どうするの? という顔で黒鉄を見る夜猫。一方黒鉄はどう反応したらいいのかわからないというような困惑した顔を浮かべていた。
「行くんじゃないのか」
そうじゃなかったら、どうすればいいんだという顔で夜猫を見る黒鉄。少し迷い子のようにも見える顔。
「そうしたらまた世界が変わる」
黒鉄を見ていた視線をどこか別の場所に変える。窓の外に見える地平線だろうか。それとも、それを覆う灰色の雲なのか。
「この世界に馴染むのにも時間がかかったのに」
「そんなに簡単に世界がかわるか」
「変わったじゃん」
当事者同士。説得力のある言葉とかですらない。説得というのがそもそもおかしい。ただの事実確認。
そう、あっという間に世界は変わった。行き先を終焉に決めて。
「たった五人で動かした世界を操縦できるなんて、思えない。たとえ星雲と黒が優れた操縦士であってもね」
はは、と喉がセメントで固められてしまってそれしか出せないかのような、乾いた声で笑う夜猫。
「まぁ、どうにかなるだろうし、どうにかするしかないだろう。――夜猫、お前が俺に願ったことを忘れたのか」
「うーうん、忘れてない」
「この先、猫はどうしたい」
「――生きたい、できれば、苦しくなく」
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