第3話 軍団にあった時の対処法【後編】

「いやぁ、壮観だねぇ」


 砦の中でごそごそやっていた夜猫が機体を3つ引っ張ってきたころ、ちょうど黒鉄と星雲もそこにそろったところだった。

 もうすでに、海月は砦の上から迎撃を初めており、こちらにひしめいて迫ってくる軍団の後方から時々煙があがる。


「ん」

「ぅあ」


 黒鉄と星雲は互いに、夜猫に調節してもらった機体や武器の確認に夢中でろくな返事は返ってこない。

 夜猫は戦闘兵というわけではないが、それでも機体にのって出撃する。特に大きな軍団に出会ったときは。はぐれ軍団のような小規模の襲撃であれば、黒鉄、星雲、海月に戦闘を任せ、夜猫は風歌とともに砦にこもり、高みの見物もしくは風歌の手伝いをしていることが多い。

 今回は少々敵の規模が大きいため、弾薬やエネルギーが尽きたときのために夜猫は後方で物資を積み込んだ機体にて待機する。時々、前衛の二人が撃ちもらした機械がやってくることがあるため、夜猫も整備士とはいえ戦闘能力は多少求められる。

 別にしょうがないから文句はないけどさあ……と愚痴めいたことを夜猫は呟いていた。


「問題ないね?」


 ほぼ意味のないような疑問形を二人になげかけて、夜猫は自らの機体に寄り掛かる。


「ああ」

「おー、完璧だぜェ」


 二人が満足していることがわかるような声色での返事が返ってきたところで、夜猫も満足気にうなずいた。彼らの整備士はとても優秀なのだ。


「んじゃあ、いってらっしゃい」


 それぞれ不敵な笑みを浮かべてしばらくした後、爆音とともに砂煙があがる。


「ぇえっほ、げほっ。……ひぐっしゅ! っふぇっしゅん! ……うぅにゃ」


 その砂煙に当然というか、どうして対策をしていないのだろう夜猫は咳とくしゃみを砂煙が消えるまで連発したあと、ずっ、と鼻をすすり、少々涙目になった顔で情けないうめき声をもらした。


 そうしてまたエンジン音と砂煙が上がる。

 先に飛び足していった2機よりは遅いスピードで、軍団へと向かっていく機体。

 その前方で機械が5、6体吹っ飛んだ。


「あーもー、大事に乗れよって言ってるのに」


 夜猫の前方、夜猫により魔改造され文明存在時の既製品のものよりも、速さがあがり操作性の上がった単車が、人間がのっているとは思えない動きをしていた。


 接近し、攻撃をしかけてくるロボットに、ブレーキとアクセルを駆使して、車体を浮かせ回し蹴りのような動きでなぎはらっている。しかも、右手は武器である銃を構えているため操作は左手と足でバランスをとるのみ。

 よく跳ね、頭上からの攻撃を狙ってきた機体に対して、前輪を一度浮かせ、光撃銃レーザーガンの銃身にて攻撃を受けると、前輪が地面につこうとするのを利用して叩きつけ動かなくさせる。

 戦場を雷のようにジグザグと不規則に移動しては時々銃口からまっすぐな光を打ち出し、機体を焼き切り吹き飛ばしていく。


 そんな相棒の人間じみていない動きにあきれ果てた目を向けながら、派手な砂ぼこりのわりには音を立てず、華麗なドリフトをかまし数機まとめて背後に回り込み、視界の外から的確な連射で全てのメモリ収納部分を打ち抜く星雲。もともとはジェット機乗りの星雲は機体の操作は足を基本としていた。

 夜猫に頼み……というか指で操作する機体は使いづれぇと愚痴を黒鉄に吐いていたらいつのまにか夜猫による改造がされていたに近しいだろう。両手が開いた星雲は拳銃を二丁構えての連射がひどくうまい。

 機体を引き返し背後にいた、5機ほどを一斉掃射する。驚くべきことに銃弾は1弾たりとも無駄にしていない。周りの機体がいなくなったことを確認すると踵をかえして、また集合地帯に突っ込んでいく。


 さらにそれらの後方、こちらに砲口を向ける大型機体に、赤紫の光が走ったかと思うと炎を噴き上げ、周りにいた恐らく補給機と思われる機体を巻き込んで停止した。夜猫の目にはその少し前、どんよりと濁った空を引き裂く光をとらえていた。周りに何もいないことを確認した夜猫は、その光が飛んできた方向を眺める。向こうもそれに気づいたようで、海月は視線だけは外さず、銃口の複数ついた砲から左手を外しピースサインを掲げて見せる。夜猫はその余裕にあふれた姿に笑いをこぼし親指を立て返す。二人は互いにとても目がいい。そのゴーグルとレンズはなんのためにあるのだと問いたいほどに。




 クエスチョン、なぜ終わりなき地獄ともいえるこの世界で彼らが生き残れたか?


 アンサー、それは彼らが生き残ろうと思ったから。




 ゆるゆると、二人を見失わないように、けれど敵機体の気を引きつけない程度に離れて進んでいた夜猫が唐突にエンジンをかけた。もはや仲間内ではおなじみの夜猫の魔改造によって、夜猫がよく使う機体はありえないほどスピードが出るように調節されている。

 そんなスピードで機体にぶつかろうものなら相手側は木っ端微塵だろうし、夜猫の使っている機体もどこか遥か彼方にでも高速スピンして吹っ飛んでいくことだろう。もはや移動だけで命がけのような速さで敵軍団に近寄った夜猫は、荷物を積んでおくところだろうなと思われるところから何かをとりだし、星雲に向かって投げる。的確に星雲の手に収まった二つの弾倉を星雲は器用に取り換える。


 それを確認しているのかしていないのかわからないが、夜猫はすぐに踵をかえし、また爆速で離れる。夜猫の後をついてこようとした機体は、夜猫に負けず劣らずのスピードで近づいてきた黒鉄になぎはらわれるか、後方から飛んできた紫電に打ち倒されるかして撃沈した。

 それでも残った機体は夜猫が立ちながら操縦という危ないことをしながら、恐らく左右のポケットから引き抜いたと思われるバールで撃退する。そのバランス感覚はすばらしい。


「おー、そろそろ終わりそうかな、数の割には資源減ってないし上出来上出来」


 夜猫は自分の仕事は終わったといわんばかりに、そのまま砦まで引き返すと機体から飛び降りる。


「……っふ、ぁっくしゅん! づぁ……」


 またどうやら砂を吸い込んだらしい。痛そうな声をもらしているが舌でも噛んだのか。……大丈夫か心配になる。


 彼らの戦いは安定している、見ていて感心するほど。

 だからきっと今まで生きてこれた。


 だけど、夜猫、君は黒鉄たちみたいに砂ぼこり対策をするべきだね。じゃないとそのうち舌がぼろぼろになってしまう。

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