帰還とご褒美
「よくぞ戻った、リリアーナよ。そして『
焔竜を葬った後もそれはそれで大変だった。
消耗しきった状態で帰還は困難、空も暗くなってきていたのでひとまず近辺で一泊することに。
熱気はヴォルカのいた火口付近が一番強い。そこから(街とは逆方向に)離れた戦場付近は暑さも落ち着いていたのでちょうどよかった。
こんなこともあろうかと食料や水はたっぷりと用意してある。
たっぷりと栄養を摂って体力をつけると、
『さて。焔竜の骨を解体しましょうか』
『待ってました』
『うん、まあ、そりゃこのままじゃ持って帰れないわよね。それはいいけど……誰が解体するのよ?』
『ははは! そりゃああれだろ、うっかり骨を砕いちまいそうな無骨者にゃ無理だし、竜の骨を斬れる武器がないとやっぱり無理だから』
『戦棍が武器のあなたにも不可能、ということですね。そうなりますと……』
『あ、はい。わたしですね。わかりました』
『まあまあ、ステラ。あたしも手伝ってあげるから』
ヴォルケイノの骨を数十のパーツにざっくりと解体、それをさらに分解して
ウィズときたら魔法の鞄に
『さて、私は聖女様と猛女様を都まで転送させるわ』
『あら。高名なウィズ様でもお二人には敬称をつけるのですね?』
『宗教家を怒らせると後が怖いもの』
二人が先んじて《テレポート》で帰還すると、後は残るメンバーで歩いて帰ることに。
正直、ヴォルケイノの骨は鞄や箱に入れて重量軽減し、みんなで分担してもなお重かったが、帰路であの焔竜以上の脅威に遭遇するはずもなく。
麓で待機していた騎士・兵士たちと合流すると荷物の運搬は一気に楽になった。
『あの、ウィズ様? 全員を《テレポート》で帰還させるのはやはり難しいのでしょうか?』
『あの魔法には重量制限があるもの。一度に大人数は転送できないわ。安全な場所でなら休み休み送れるけれどね』
というわけで、いったん普通に『冒険者の街』へと帰還。
盛大に出迎えられ、一晩ゆっくり休んだ後、騎士や兵士と共に騎士団長が陸路で都へと出発して。
『ステラ、エマ。あなたたちも
『あ、ボクも手伝うよ!』
ウィズ以外の三名(俺含む)はあくまでも無理やりレベル以上の魔法を使っているだけ。
メテオは発動さえすれば大雑把に狙いをつけるだけでよかったのに対し、《テレポート》は詳細な制御が必要なので正直そっちのほうが不安だったのだが、魔法はちゃんと発動して。
前に移動した時は何日もかけて移動した王都に、一瞬にして到着した。
その日は久方ぶりに離宮へと宿泊し、翌日──国王へと謁見して、今に至る。
「其方らの果たした偉業に敬意を表すると共に、リリアーナを竜の呪いから救い出してくれた事、深く感謝する」
都では焔竜討伐に伴うパレードが開かれることになった。
ヴォルケイノの骨のうち頭の部分が大きな車に載せられ、都の大通りを練り歩いた。
主役として頭蓋骨の傍に立つことになったのはドレスで着飾ったリリアーナと、冒険装束姿の俺。
パレードには大観衆が詰めかけ、三日三晩にわたって酒と食事が振る舞われ、都中が喜びのムードに湧いた。
そして。
「無論、宴を開いて終わりにするつもりはない。其方らには十分な褒美を取らせよう」
「あー。……正直、前にもいろいろ装備をもらってるし、そんなに大層なものはいらない気もするんだけど」
「フレア。国王陛下に対して失礼でしょう?」
「その通り。もらえるものはとりあえずもらっておけばいい。お金はいくらあっても構わない」
「……リーシャさんとエマさんでずいぶん、話の方向性が違う気がしますが」
ヴォルケイノ討伐の報酬に関しては焔竜の骨の一部の現物支給+かなりの額の金銭という形が基本になった。
現金に関しては功績のわりに控えめな額だが、竜の骨がめちゃくちゃ貴重なのでそこは問題ない。
「竜骨は利用価値が多い。学院もあればあるだけ欲しがるであろうし、まとまった量があれば
後者の試みはちょっと暴走した時が怖い気がするが。
「よって、もしも骨が必要ないという者には代わりに相応の金を支払おう」
俺たちは悩んだ末、結局四人全員が自分で使う分の骨だけをもらい、余った分は換金してもらう、という形を取った。
エマは魔法の触媒にするための牙や爪は欲しいがその他の部位はいらない。
俺とフレアは「この際だから竜骨製の防具で全身固めてみたい」と一人分の骨だけを希望。
リーシャは記念として実家である伯爵家に寄贈する分だけの竜骨を求めた。
残りを金や宝石の形で受け取ると……本当にもう、冒険しなくても楽しく暮らしていけそうな額に。
「そして、ステラよ。竜討伐において多大な貢献をした其方にはさらに、一代限り『伯爵』を名乗ることを許可する」
「伯爵……ですか!?」
「うむ。子に引き継がせることはできぬが、今後其方は貴族として扱われる。……もっとも、リリアーナの伴侶という肩書きのほうが大きいかもしれぬが」
「わたしが伯爵だなんて……」
「いいじゃない、もらっときなさいよ。これで正式にリーシャのお父さんと同格よ?」
まあ、もちろんこれは政治的な意味合いが強い。
リリアーナの結婚相手として今後も認めるにあたってこのくらいの箔付けが必要ということだ。
それでも、竜殺しの英雄にして貴族位を与えられた冒険者、という栄誉は嬉しくて。
「……ありがたく頂戴いたします。陛下のご厚情に心からの感謝と忠誠を」
なお、フレアとエマも「男爵位あたりをやろうか?」(意訳)と言われたものの「堅苦しいからやだ」(ほぼ原文ママ)と断った。
◇ ◇ ◇
謁見やパレードが終わった後もしばらくは慌ただしく。
俺の伯爵就任式や関係各所への挨拶、貴族との顔つなぎ等々で俺たちはまたしばらく都への滞在を余儀なくされた。
侍女たちは《テレポート》で呼び戻して。
「なんだかまたしばらく落ち着いてしまいそうですが、これからどうしましょうか?」
「そうねー。……リリアーナはどうしたいの?」
「わたくしは一度、冒険から離れようと思います。みなさまには申し訳ありませんが、式の準備もありますので」
「式?」
「あら。わたくしたちとステラお姉さまとの結婚式ですわ」
リリアーナと俺は一度式を挙げている。
挙げているが、あれは竜襲来を警戒しながらのもので参加者もほとんどいなかった。
竜殺しの英雄と竜殺しの王女の結婚をあれで終わらせるのはいろんな意味でありえないということでやり直すことに。
ついでにリーシャたちとの結婚式も一緒に挙げてしまえばどうか、という提案だ。
「ステラお姉さま? それでよろしいでしょうか?」
「わたしとしてはなんの問題もありませんが……みなさんは大丈夫ですか?」
フレアたちも、最初は若干戸惑った様子だったものの、すぐに頷いてくれた。
「いいんじゃない? 楽しそうだし。でも、それだとステラってドレスとスーツどっちを着るのかしら?」
「気にするところそこなんですか!?」
「ふふっ。でも、確かに重要だと思います。わたくしとしてはやはり、お姉さまにもドレスを着ていただきたいのですが」
「いいと思う。みんなで白いのを着ればいい」
「花嫁が五人、新郎不在の式ね。……前代未聞かもしれないけれど、きっと素敵だわ」
純白のウェディングドレスを纏った俺たちの姿は、上から見ると百合の花弁のように見えるかもしれない。
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