フレア(10)
部屋の中心に大きなベッドが置かれている。
天蓋も柵もついていない、円形の、ダブルサイズ+αはあるそれ。
周囲には等身大の姿見が所狭しと並べられており、どこを見ても自分の姿が映し出される状態。
天井を見ても逃げることはできず──そこにもわざわざ鏡がびっしりと固定されていた。
しっかり留まっているので「落ちてきそうで怖い」という心配はないのだが。
「……どうしてこんなに鏡を用意する必要が?」
「夢だったのよ、鏡でいっぱいの部屋で初体験するの。実現できそうならやるでしょそりゃ」
「でも恥ずかしいじゃないですかこれ!」
「恥ずかしいのがいいんでしょうが!」
この露出狂……!
と、言い合っている俺、そしてフレアは共に下着姿だ。
フレアは赤いショーツに同色のキャミソール。右手と左足にはシュシュとガーターリングを装着しており、首にも赤の細いチョーカーを施している。
俺の下着は黒で統一。大人っぽい色ではあるが、フリルやレースで可愛らしさもある。ブラとショーツの他にアームカバーとフットカバー、ヘッドドレスでやりすぎなくらい飾られている。
お互いにお風呂に入り、軽く香水まで施された状態。
「本当はみんなに見てもらいながらだともっと良いんだけど……」
「さすがにドン引きしますよ、フレアさん……?」
「なによ、ステラだって恥ずかしいの好きなくせに」
どうしてこうなったのか。
説明するのは実のところそんなに難しくない。
◇ ◇ ◇
リリアーナと結婚してもいいのか、という俺の問いに「いいわけない」と答えたフレア。
彼女はそのあとこんな風に続けてきた。
『あたしたちが先にそういう関係になったのに、どうして先にリリアーナ様がいい思いするのよ! 結婚したいならあたしたちを抱いてからにしなさい!』
『そこなんですか!?』
結婚すること自体は別に構わないらしい。
『冒険の邪魔されるならアレだけど、リリアーナ様はあたしたちの仲間になりたいんでしょ? なら別にいいじゃない。どっちにしろあと一人くらいメンバー欲しかったし』
『で、では、フレアとステラお姉さまに一夜を提供すれば良いのですね……? あの、それは見学してはいけないでしょうか……?』
『あたしは大歓迎だけど』
『リリアーナ様もフレア様も少々落ち着いていただけますでしょうか』
ちなみにリーシャは「わたくしはすべてが済んでからで構いません」とのこと。
『初夜は結婚後に迎えるものですし、結婚したのであれば子供を作るのが当然です。今はまだ妊娠には早いと思いますので……』
『リーシャ、常識的なようでいてものすごく重いこと言ってるけど、自覚ある?』
と、ツッコミを入れたエマはというと、
『とりあえずフレアとするといい。私は初めてと言っても処女膜はないし』
『そう言えばそうですけど……』
『ステラがしてくれるっていうなら喜んでしてもらうけど、ぶっちゃけ挿れて出すわけでもないし、女同士でそんなに重要視する必要もないと思う』
『あんたもう少し歯に絹着せることを覚えなさいよ……?』
というわけで、この部屋は俺とフレアのために離宮の侍女たちが手配してくれたものだ。
ちなみに、
『じゃあシェリーは? あんたもステラのこと好きなんでしょ?』
『わ、わわ、私はそんな……! 従者の立場ですから、自分から抱いて欲しいなどとは言えません! ……その、ご命令があればいつでもこの身を差し出す覚悟ではありますが……』
『あら、じゃあ私が立候補しようかしら? フレアとステラはお互い初めて同士なんでしょう? リリアーナたちを抱く前に経験豊富なお姉さんが手ほどきしてあげる』
『歳を考えて言えば、おばさん』
『誰がおばさんよ誰が!』
『ババアって言わなかっただけありがたいと思って欲しい』
という会話もあったことを付け加えておく。
◇ ◇ ◇
「……こんなに早くこの日が来るなんて思いませんでした」
「往生際が悪いわね。ほんと心まで女の子に染まってるんじゃないのあんた」
「これだけいろいろ経験すれば女の子にもなりますよ。……もう男の口調で喋るほうが演技してるみたいで落ち着かないと思います」
「へえ。ずいぶん覚悟決まったじゃない。……じゃあ、遠慮はいらないのね?」
静かな部屋に二人きりでいるとどうしても『そういう気分』になってくる。
今はそういう時のための衣装に身を包んでいるから尚更だ。
視線を逸らそうにも鏡のせいで自分たちの姿を直視させられてしまうし。
「どうしても恥ずかしいならあたしがリードしましょうか? ……その場合、あんたの初めてをもらうことになるけど」
「だっ……わ、わたしがちゃんとしますから……!」
フレアは事前に「あんたの処女には手をつけないでおくわ」と宣言している。
『リリアーナ様かリーシャのためにとっておきなさい。女同士なら別に膜を破っても破らなくてもあんまり関係ないし』
じゃあやっぱりエマの言う通り、別に初体験に拘らなくてもいいんじゃないかという話もあるのだが、
『意味があるのはあたしの初めてだもの。……あたしの「秘蹟」あんたにあげるわ』
フレアの処女を奪った者は永続的にその力を増すことができる。
公開すれば貴族・王族から求婚が殺到するだろうに。
紅の瞳は真っ直ぐに俺を見て、
「好きよ、ステラ。……だから、ただの『仲間』はそろそろ終わりにしましょ?」
「……フレアさん」
タイミングとしてはちょうど良いのかもしれない。
『竜の花嫁』の略奪を試してしまうとなにが起こるかわからない。
最悪、ドラゴンの襲来が早まる可能性さえあるので、その前に成長することができたら正直助かる。
また、強くなったとしてそれに慣れるための鍛錬の時間も欲しい。
なにより、俺自身がこれ以上、フレアを待たせたくないと思った。
「わたしも、フレアさんのことが好きです。……愛しています」
言葉とはある種の魔法だ。
口にしただけで暗示のように心に入りこんで、気持ちを強化してくれる。
ああ、自分は彼女が好きなんだという実感が胸を満たして切ない気持ちになった。
「……えっと。で、これからどうすればいいのかしら」
「わたしだって初めてなのでよく知らないんですが」
「あんた、ちゃんとあたしを押し倒さないと承知しないわよ」
そうだった、こいつは若干無理矢理気味にされるのに憧れているやつだった。
仕方ない。
男だった頃に「いつか女とそういう関係になった時のために」と、経験豊富な先輩から聞いた知識を思い返して。
フレアの、意外なほど華奢な肩に手を置き、抱き寄せた。
いい匂いがする。
香水と、それからフレア自身のにおい。
顔を近づけるとフレアはゆっくりと目を閉じた。
俺もそれにならって目を閉じ──額が先にこつんと衝突。
仕切り直そうと思ったら今度は歯が当たって。
「なにやってんのよ、もう」
「し、しょうがないじゃないですか」
しょうがないので今度はお互い目を開けたまま近づいて、
「……なにこれ、えっろ」
「そういうこと言わないでもらえますか……!?」
今度こそ、触れ合うようなキスをした。
触れて、離れて。紅の瞳が間近にあることに妙にどきどきして。
今度はもう少し長く、しっかりと。
そんなことを何度も繰り返すうちに、目を閉じていても、互いの唇を求められるようになった。
さらに舌が触れて、互いの吐息がはっきりと感じられるくらい乱れて。
普段とは明らかに違う、可愛いフレアの声が耳をくすぐって。
お互いにどうしようもなくなり始めたところで、俺はベッドの上に彼女を押し倒した。
「……いいわよ。あんたの好きなようにしなさい、ステラ」
それから気づいたら朝になっていて。
俺は二つの『
『精霊の娘 ランク:A
あなたの魔力を+3する』
『祝福の乙女 ランク:S
処女を捧げた相手に永続的な加護を与える』
『秘蹟』をくれるってそういう意味じゃなかったような気もするんだが。
「……えへへ。おはよ、ステラ。昨夜はありがとね? その、すっごく良かった」
隣で目覚めた少女の笑顔で全部どうでも良くなった。
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