エマ(7)
中庭に置いた木箱の上。
木材を柱上に切っただけの雑な『的』に、俺の魔法が命中した。
魔力の矢を受けた的は木っ端微塵。
ちゃんと上手く行ったことにほっとしつつ、俺は古代語魔法の師を振り返って、
「どうですか? 威力が上がったと思うんですけど……」
「うん、確かに上達した。これもヴォルカとひとつになった影響」
「若干表現がいやらしい気がするんですが」
先日、俺はヴォルカとの同化を経験した。
同化自体はつつがなく終了──というか、くだらない用途で終わったのだが、同化の解除後、俺は自分の魔力的な感覚が研ぎ澄まされていることに気づいた。
何割かが精霊化している身体が、大精霊の魔力操作を生で経験させられてコツを掴んだのかもしれない。
「これならワンランク上の魔法も使えると思う」
「やった」
俺は魔法が上達する都度、上の魔法を学習している。
対して、師匠についたり学院で学んでから冒険に出る魔術師の多くはかなり高ランクの魔法まで『制御は無理だが呪文自体の発声は完璧』というところまで先に教え込まれることが多い。
後は自分で研鑽して制御できるようになれ、と放り出されるわけだ。
教え方としてどっちがいいかと言われると微妙なところではあるが、エマがそばにいる俺にはこっちの方法が合っているだろう。
今回は魔力をうまく扱えるようになって消耗を抑えられるようになったので上に行くお許しが出た。
上手くできないうちに無理して上の魔法を使おうとすると、そもそも失敗してなにも起こらないならまだいい方、魔力を全部持っていかれて命を落とすことさえあるのでこの辺はなかなかデリケートだ。
「じゃあ、また発声練習からですね」
魔法の練習方法は精霊魔法、古代語魔法、神の奇跡でそれぞれ違う。
一番理論立てて習得できるのが古代語魔法で、その分、地道な過程も多い。まあ、声に出して詠唱するのは他の魔法でも慣れているのでそんなに苦でも──。
「待った。その前に、せっかくだからもう一段階、ステラには上達して欲しい」
「と、言いますと?」
首を傾げた俺に黒髪黒目の美女はにっこり笑って、
「身体の感覚をさらに一段階引き上げる秘策がある」
◇ ◇ ◇
「って、えっちなことするだけじゃないですか!?」
「失礼な。これが上達につながるのは前々から繰り返しているはず」
「それはそうですけど」
「というかステラもだんだん抵抗が弱くなってる」
「……それはそうですけど」
さすがに今更「いやだ」と言っても説得力が薄いし。
エマの寝室に連れて来られた俺は、普段エマが眠っているベッドにちょこんと座っている。
エロいことをするとわかってこうしていると、なんかこう落ち着かないわけだが。
そんな俺の目をエマがじっと覗き込んで、
「ひょっとしてステラ、期待してる?」
「ばっ……!?」
「大丈夫。わかってる。フレアとヴォルカにさんざん辱められて逆に欲求不満なんでしょう? なら私がたっぷり解消してあげる」
だから違うって、と言いたい俺だったが、それを言うと嘘になるかもなあ……という思いが口を重くさせた。
実際、そういう部分はあるかもしれない。
フレアたちのやった、やらかしたことは確かにエロかったが、事実だけを羅列すると「部屋の中でエロい衣装を着ただけ」だ。
興奮はしたものの解消はされていない。むしろ蓄積したと言っていい。
で、その、あまり一人で発散しようとするのも怖いというか。
女性的な欲求不満を夜中に一人でこっそり解消とか、そこまで行ったらもう自我が完全に女に引っ張られそうな気がする。
なのでまだ言い訳のきくこの状況はマシ──って、こうやって順応し始めてる時点でだいぶ染まっている気がするが。
「……すみませんシェリーさん、こんなことに巻き込んでしまって」
「い、いえ、私はぜんぜん構いません。ぜんぜん」
言いながら顔を真っ赤にしているシェリーは、こうなった以上は、と俺が呼んだ助っ人だ。
どうせエマのことだからあれこれ道具を使うに決まっている。
となると、本人に任せておいてはどんどんエスカレートしかねない。初心者相手だということを忘れないでもらうため、エマは指示役、実行役を別に置いてもらうことにした。
案外、これに関してはエマもすんなり頷いて、
「というわけでシェリー。今日はあなたがステラを責める」
「……私が、ステラ様を」
「何度もいじめられた経験があるはず。ここはひとつ思う存分やり返してあげて」
「……かしこまりました。お任せくださいませ、ステラ様」
「あ、あの、お手柔らかにお願いしますね?」
あらかじめ「棒状のものを入れるのは無し」と言い含めてある。
エマだけだと忘れられそうだが、さすがにシェリーがいれば大丈夫だろう。
俺はかすかな不安とかなりの興奮を覚えつつ、シェリーのたどたどしい手つきで目隠しをされた。
「っ」
それだけで身体が跳ねる。
視られている。なのに、自分はそれを視覚で認識できない。
フレアに育てられた露出癖が顔を出して、
くすり、と、息を漏らしたシェリーが俺の傍ですん、すん、と鼻を鳴らして、
「服をお脱がせいたしますね、ステラ様?」
メイドの手によって優しく、下着姿にされる俺。
さらに、両手を上にあげた状態で手枷を嵌められ、両足も鎖付きの足枷で可動域を制限されてしまう。
ベッドに寝かされ、頬や肌を撫でられながら革製の首輪を嵌められて。
「どんどん抵抗できなくなっていくステラ、可愛い」
「……本当に。羨ましくなってしまいます」
責められるのが好きな者は、責め側に回っても実力を発揮しやすい。自分がされることを想像しながら相手に施すことができるからだ。
「さあ、ステラ様? 口枷も嵌めますね」
「ん……っ」
口が半開きの状態で器具を咥えさせられ、ベルトで固定されると、言葉を発するどころか涎を我慢することさえできなくなって。
外に垂らさないようにつばを必死に飲み込んでいると、
「さあ、どれがいい? シェリーの好きな物を使うといい」
「え、っと……では、やはりなるべく軽いものを」
シェリーを呼んだのは間違いではなかった。
おかげで二人分の視線を受けることになってしまったが……ぶぶ、と、聞こえてきた振動は小さく、耳慣れたもので。
「……いきますよ、ステラ様」
「っ!?」
その刺激は、あらかじめ取り決めた通り、身体の中に入ってくることはなかった。
小さな卵型の器具が身体のあちこちに触れてくるだけ。
合間にシェリーの細い指も俺を撫でる。
これくらいならスキンシップ、マッサージ。……と、自分を誤魔化すには少々、シェリーの息が荒くなり過ぎているが。
「あぁ……っ。とても素敵です、ステラ様。このまま身を任せてくださいませ」
「〜〜〜っ!!」
なんというか、うん。
今の俺なら言葉を介さなくとも『火の精霊である自分』に呼びかけて手枷足枷を燃やすことはできるし、そうでなくとも鎖と手枷の接続部を力任せに壊すくらいはできる。
つまり、逆に言うと「本気で抵抗しないってことはそういうこと?」と言われてしまう状況で。
半分、自分でも望んだ状況であるのも手伝って、逆らえなかっただけの今までとは意味合いの違う羞恥に俺は翻弄されてしまった。
結論から言うと。
終わった時、俺は汗だくの状態で、下着もずらされ、正気で認識すると恥ずかしすぎる状態になっていた。
ついでに責め役のシェリーまで着替えが必要な状態で。
それだけ激しい行為があったということで……まあ、当初の取り決めは守られたのでそれは良かったのだが。
すべての拘束を外しながら、シェリーは「申し訳ありません」と謝ってくれた。
「いえ、シェリーさんはなにも悪く──」
「いいえ、主にこのような無礼を働くのは、たとえご命令であっても許されません。ですので……私にも今度、お仕置きをしてくださいね?」
囁くように言われたのは……うん、要するに「やっぱりされる側がいい」ということか。
この子も俺たちと会ってたがが外れてきたというか、どんどん沼に浸かっている気がするが、まあ、今更どうしようもないか。
そうして俺は考えるのを止め、疲労でうまく動かない身体をしばし休めたのだった。
なお、不本意なことにこの後、俺の持つエマの『秘蹟』(コピー)は二段階目に進化し、この特訓の成果はしっかり証明されてしまった。
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