母を訪ねて(2)
咆哮を上げ、俺たちに向かってきたのは『岩を纏った竜』。
「またこいつ。固いから好きじゃない」
「別にぶった斬ればいいじゃない。ステラ、行ける?」
「はい! 陽動をお願いしてもいいですか?」
「もちろん!」
短く作戦を決めると、俺はフレアの後に続いて駆け出した。
魔剣を抜き、敵──ストーンドラゴンがフレアに反応したところで加速。
魔法のアンクレットの力も加えて一気に跳躍して、
「はっ!」
敵の関節部に渾身の一撃を叩き込んだ。
防御の脆い位置に食い込んだ刃は半ばまで食い込み、絶叫を上げた石竜の顔面にフレアが剣を突き立てる。
俺は剣を引いて握り直すと、長い胴体の真ん中あたりを狙って、思い切り剣を振り下ろした。
両断された石竜にリーシャがダメ押しの銃を浴びせれば、あれだけ苦戦した相手が嘘のようにあっさりとその身を停止させた。
終わってみるとなんともあっけない。
「……あらためて思いますけどこの魔剣、とんでもないですね?」
「当たり前でしょ。壊れないし軽くも重くもなるし使い手の腕を上げてくれるし切れ味も良いのよ?」
うん、それを強く実感した。
アルフレッドも聖剣をうまく運用すれば似たようなことはできそうなものだが──あいつは三人の仲間を守りながら戦っているから難儀している部分もありそうだ。
あとぶっちゃけ、俺たちが「冒険しては休む」を繰り返しているせいもあると思う。
「フレアさんがこの剣を使えればいいんですけど」
「確かにそう。ぶっちゃけフレアにはその剣は軽すぎる」
筋力30を超えているフレアだが、彼女の使っている剣はせいぜい筋力20くらいで扱える代物だ。あまりにも軽い。
……常人からしたら十分すぎるくらいに重い?
うん、まあ、そんな話もあるが、フレアなら鉄塊みたいな大剣も振り回せるからな……。
しかし、当の少女は「いいのよこれで」と紅の髪をかき上げる。
「あたしにはこれが合ってるの。ぶっちゃけ、この時のためにこの剣があるようなものだし」
フレアの剣もマジックアイテム。
俺の使っている──使わせてもらっている魔剣ほど劇的な効果はないものの、あれも一財産築けるくらいの代物ではある。
そのうえどうやらまだ俺たちの知らない効果があるらしい。
とにかく、俺たちはストーンドラゴン討伐の証拠として牙を確保すると、さらに奥へと足を進めた。
◇ ◇ ◇
「……あ、やっば」
フレアが足を止めたのは午後、そろそろいったん野営するか、それとも行けるところまで進むか決める頃合いに差し掛かった時だった。
いつになく冷や汗をかいた彼女。
進むほど気温の上がる山の気候のせいではないはずだが、
「フレア? まさかここまで来て『忘れ物をした』なんて言わないでしょうね?」
「違うわよ! ……この先からやばいのが来るわ。下手したらここで全滅するかも」
「全滅って……」
今の俺たちが成すすべもなくやられる相手がいるっていうのか?
このルートは比較的安全じゃなかったのか。
俺は魔剣を確認しつつ「逃げますか?」と提案して、
「ううん。逃げて後ろから襲われたらそれこそやばい。しょうがないから迎え撃ちましょ」
……覚悟を決めるしかないっていうのか。
「仕方ないですね」
息を吐き、死線をくぐり抜ける覚悟を決める。
命がけの戦いなんていつものことだ。駆け出しの頃、ゴブリンの群れを相手に決死の戦いを挑んだこともある。
敵の強さと自分の強さが違えど、結局はいつもの動きができるかどうか、いつも以上に動ける一瞬を作れるかどうかで──。
俺たちはいつでも戦闘に移れる状態のまま、フレアの直感した『相手』を待ち受けて。
「……何がいるのかと思えば、お前達か。警戒をして損をしたな」
「っ。こっちの台詞よこのデカブツ!」
やってきたのは魔物ではなく人だった。
こんな危険な場所を我が物顔で進めるのは限られた者しかいない。
その相手は、『冒険者の街』No.1パーティ──『
◇ ◇ ◇
『駆除する者』はリーダーである戦士を中心とした六人パーティだ。
巨人の血が入っているというパーティリーダーは身長2メートル超え、筋力は30代後半だか40を誇る化け物──もとい、まさに英雄と言うべき存在だ。
彼の背負った、鉄塊を超えてオブジェとしか思えない大剣は相手がなんだろうと関係なく叩き潰す。
彼を支えるエルフの精霊使い、ハーフリング(小人族)の盗賊、戦神の神官戦士、元騎士だと言う中年戦士、そして紅一点である古代語魔法使いの少女もそれぞれに化け物級の実力者。
さすが、存在感が違いすぎるというか、こいつらがいたら並の魔物は寄って来ないんじゃないか。
本来ならのんびり話をするような場所じゃないんだが、「あ、今ならドラゴンが来ても勝てるんじゃね?」くらいの雰囲気なので、俺たちはいったん情報交換に入ることにした。
簡単にお茶の用意をして休憩を取りながら、
「お前達が来たのは先の噴火もどきの対応か?」
「そんなところよ。今回の件はあたしの身内の不始末だから派手に動かないでくれる?」
「火の大精霊か。俺も以前一度会った」
「会ったの!? あんなところまで良く行けたわね!?」
「我々はお前のように半精霊ではないゆえ、たどり着けたのは俺一人だったがな」
おい、素性がバレてるぞフレア。
「……ねえ、なんであたしが半精霊ってわかったわけ?」
「? 俺が巨人の血を引いている事をお前は知っているだろう? 同じように見ればわかる事だ」
「あんたの巨体と一緒にするんじゃないわよ!?」
「えっと、つまりフレアさんと同じで人間離れした方なんですね?」
「待ちなさいステラ。あんたまであたしをこのデカブツの仲間にしないでくれる?」
いつもは軽いノリで済ませるフレアからわりと本気で睨まれてしまう。
アルフレッドとは「スタイルの違い」で済ませられるものの、この戦士相手だと自分がはっきり格下な気がして気分が良くないのか。
それでも張り合おうとしてしまうあたりさすが気が強い。
感心していると、向こうのリーダーが俺を見て、
「お前が噂の少女か。……なるほど、凄まじい素質を秘めている」
「ありがとうございます。でも、そんなこともわかるんですか?」
まさか俺がNo.1パーティのリーダーから褒められるとは。
「ああ。お前ならばいずれ俺と並ぶ力を身につけるかもしれん」
「お言葉ですが、わたしはもう少し手前で打ち止めかと」
具体的に言うとフレアの筋力を超えるのはかなり大変だろう。
「そうか。……お前がその道を選ぶのならばそうなのかもしれん」
おい。意味ありげな言葉を重ね続けるのは止めろ。
まあ、フレア以上の力持ちに憧れを抱ければさらに成長できるってことなんだろうが、そんなのこいつ以外にいるのか?
「しかし、その剣。……つまりはそういうつもりか、半精霊の娘よ?」
と、彼が見ているのは俺の魔剣ではなくフレアの剣。
「ま、そうね。だったらなにか問題?」
「いや。しかし、そうなると少々厄介かもしれん。……この山のパワーバランスが一気に変動する」
この山、というか連なる山脈群はいろんな魔物がにらみ合う形で共存している。
もし、フレアの母親がなにかしら動くとなれば確かにひと騒動起きかねない。
噴火もどきでさえ魔物をだいぶ刺激したみたいだし。
「有事の際には我々も動かざるをえない。よもやそれを止めはすまい?」
「はっ。当たり前でしょ。それはそっちで好きにやりなさいよ。あたしが責任持つのはママの対応だけだし」
「良かろう。ならばお互い、それぞれの最善を尽くすとしよう」
わかったようなわからないような。
俺たちとNo.1パーティの出会いは突然起こって、いともあっさりと終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます