エマ(6)
「フレアを甘やかしたなら私も甘やかして欲しい」
あ、これ堕落への連鎖じゃね?
翌朝には(俺と)フレアの夜の遊びについてみんなが知るところとなり、エマが真顔で俺に要求してきた。
リーシャはさすがに「不謹慎よ」と注意してくれるものの、彼女もどこか期待しているのが顔を見るだけでわかる。
これは逃げられないなと悟った俺は、
「わかりました。……その、わたしもエマさんのこと、その、好きですから」
「…………」
「…………」
沈黙。
なんで黙るんだよ、と思ったらみんなしてなにやら感動していた。
そういう反応をされると俺としても気恥ずかしい……。
「この調子で行けばステラを深みに嵌まらせられる。あと一息」
「エマさん。台無しですからね?」
◇ ◇ ◇
朝食後、俺はエマの部屋に行った。
「今日は学院や魔道具店を周りたかったんですが……」
「魔道具の件でしょう? わかってる。私も『お散歩』で問題ない」
「日中、外であれは無理ですからね? 本当に社会的に死んじゃいますからね?」
「大丈夫。あれはさすがに上級者向けすぎる」
さすが、いかがわしい道具に関しては一家言のある女だ。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「もちろん、お散歩と言ったらこれ」
エマが取り出したのは例の、装着するタイプの棒だ。
いや、前のとは形が違うか? ついでに宝石が埋め込まれていて魔道具っぽい。
「これは新しく仕入れたもの。前に見せた道具と同じで振動する」
剣の柄のような道具がセットになっており、それを握って、先端のボタンを押し込むことで棒が振動する仕組みらしい。
「ボタンを押す強さによって振動の強さも変えられる優れもの」
「直球すぎる道具じゃないですか!」
「でも、ステラだって興味はあるはず。ないとはもう言わせない」
「そ、それはまあ……なくはないですけど」
自分の身体に使うのはもちろん怖い。
ただまあ、使うのがエマなら俺に痛みとかはないわけで。
ついでに彼女が興奮しているのを見ると「そんなにいいものなのか?」という興味は湧いてくる。
「今日はステラが私のご主人様。この棒は必須として、後は好きなように道具を使って欲しい」
「わ、わかりました。それじゃあ……」
俺は少し考えてから、エマへの仕打ちを決定した。
◇ ◇ ◇
足踏みしていた大人の階段を馬鹿みたいな速度で駆け上がっている気がするが。
「ステラ。……もうちょっとゆっくり歩いて」
「あ、すみません。さすがに歩きづらいですよね?」
「うん。コートが擦れて変な気分になる」
珍しく、街を歩くエマの表情が少し赤くなっている。
当然か。
いつものコートこそ着ているものの、その下にはなにも身につけていないのだから。
着けているのは例の棒と、それを固定するためのベルト。後は革製のチョーカーだけ。
そりゃあ恥ずかしい。
……と言っても、俺だって恥ずかしかった。エマときたら俺に棒の装着までやらせたのだ。
しかも途中で変な声出すし。
「ステラもなかなか鬼畜。いい傾向」
「少なくともフレアさんの悪影響はかなり受けてますね……」
裸コートなんて発想、そうじゃないと出てこなかった。
「問題ない。後はときどきスイッチを入れてくれれば完璧」
「それはさすがに……」
わりとこの時点で十分じゃなかろうか。
「とりあえず用事を済ませましょう」
「うん。魔道具の相場なら頭に入っている。任せて」
というわけで、まずは学院が保有している正規品をチェック。
「学院の魔道具は値段と品質が安定しているのが売り。その代わり相場よりは値段が高め」
「安心、安全がウリなんですね」
「そう。安いものが売られていることもあるけど、そういうのは試作品だったり、造りが甘かったりする」
涼しい顔で解説しているエマがコートの下にいかがわしいアイテムしかつけていないとは誰も思うまい。
ときどき挨拶されてそれに答えたりしつつ学院内の魔道具販売所に向かって、
「おやこんにちは、エマ殿」
またエマが声をかけられた。
俺は初老の魔法使いに会釈をしつつ「こういう時に使えばいいのか?」と左手に持つスイッチを握り込んだ。
「こんにちは」
「元気そうで何よりですな。して、そろそろ学院に腰を落ち着けてくださる気は」
「残念だけどその気は──ひぅっ!?」
「ひう?」
「な、なんでもない。今のところその気はない。ごめんなさい」
何事もなかったように会話は終わり、数歩歩いたところで、
「……やっぱり、ステラはやればできる子」
恨みがましい視線と共に熱のこもった褒め言葉をいただいた。
「顔と言葉が一致してません」
「ものすごく恥ずかしかった。だからこそ、ものすごくいい仕事」
うん、やっぱりフレアとエマは性癖的に仲良くできる部分があるな。
などと言いつつ。
「……本当に普通の魔道具ばかりですね?」
「面白い掘り出し物は基本的にない。そういうのは研究対象になる。個人をあたれば別だけど、先に街の店を見て回ってみてもいいと思う」
「そうしましょうか」
せっかくなので移動中、何度かスイッチを押しては離したりした。
その度にエマがぴくっと反応するのでちょっと面白い。
……反面、不意打ちで食らってよくその程度で済むな、と思う。
俺がやられたらとっくに腰砕けになっていそうだ。やはりこのプレイは素人にはオススメできない、どんな状況でも表情を取り繕えるエマならではなのだろう。
◇ ◇ ◇
さらにエマおすすめの魔道具店をいくつか周って。
「個人店は仕入れが安定していない。基本的に中古品の買い取りに頼っているから一期一会だけど、その分、遺跡から発掘された特殊な品や、他の地方から流れてきた一点ものと出会いやすい」
「値段と効果がまちまちで面白いですね」
「これだから古物商めぐりはやめられない」
品物の鑑定はエマがやってくれるので店主にぼったくられる心配も少ない。
「ステラ的にはどの部位に装着するのが狙い目?」
「そうですね……。身体に合えばですけど、腕輪かアンクレットでしょうか」
加工に出していた竜の骨が腕甲として仕上がってきたので、腕輪ならもう一方の腕につける。
アンクレットは戦闘の際に破損しづらいのが一番の利点だが、足にフィットしてくれないと靴を履く時に邪魔になる。
「サイズの自動調整機能付きは基本的に高い。費用対効果で言うならやっぱり指輪」
「ですよねぇ」
「ただ、指輪は種類も多い。競合しやすいから後々を考えると空けておくのも手」
装着できる魔法の指輪は左右一つずつまでだ。
それ以上つけると魔力が競合してうまく働かなくなる。
「……そう言えば、ステラの『秘蹟』はこういう魔道具を調べるのにも使えるかもしれない」
「あ」
発揮するのに条件のある効果だと今まで見つかっていない可能性がある。
俺が触れことでそういうのが見つかることは確かにありえた。
「ステラ。こうなったら魔道具店だけじゃなくて古道具屋も回ろう。マジックアイテムなのはわかってるけど効果不明ながらくたが転がってると思う」
「わたしは構いませんけど、エマさんは平気ですか?」
尋ねると、黒髪黒目の変態美女は「私を誰だと思ってるの」と真顔で答えてきた。
そういうことなら、と、俺は彼女と共にさらに街をめぐって、
「あ、ステラさん、それにエマさん!」
元行きつけの宿の看板娘と偶然出会った。
せっかくだからと立ち話をしつつスイッチをオンにすると、ぴくっと身を震わせて俺の服を掴むエマ。
さらに強く押し込むと、彼女はぴくぴくしながら俺の背に隠れた。
「? エマさん、どうしたんですか?」
俺はボタンから指を離して、
「わたしが無理言って連れ回したので疲れてしまったのかもしれません。すみませんが、そろそろ宿に戻りますね?」
「! 大変! 私もお使いの途中だったっけ!」
離れていく看板娘を見送ると同時、エマがその場でがくっと膝を折る。
「ステラ、スイッチ……」
「大丈夫ですよ、もう離しました」
「違う。いまいいところだからひと思いに」
恥ずかしさで怒られるかと思ったら最高に楽しんでいたらしい。
そういうことならと、俺は一人で楽しんでいるエマへの責めとして思い切りボタンを押し込んだ。
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