双子の遺跡(2)
「それにしても、調査の終わってるほうをあたしたちに譲ってくれるとか、あいつも気前がいいわよね」
「でも助かりました。わたしは本職の盗賊ではありませんし……」
一番動きの少ないエマの手にはアルフレッドたちから託された遺跡の地図がある。
一つ一つ手探りで調べ、その結果をまとめたもの。
罠の位置や内容までしっかりと記されている。
魔法の明かりを灯し、穴を通って本来の入り口へ。
扉は固く閉ざされており、表面には五つのボタン。
「決められた順番で押さないと電撃が流れる……だったかしら?」
「そう。5×4×3×2だから120通り」
幸い、一発一発は死ぬほどの威力ではないらしく、アルフレッドは失敗するたびに自分で自分を癒す、という力業で正解を導き出したらしい。
「幸い正解はわかってる。フレア、押して」
「安全なのわかってるならエマが押せばいいじゃない」
「緊急リセット時にパターンが変わった可能性がある。一番頑丈なフレアがやるべき」
「なによ、結局危ないんじゃない!?」
「あの、わたしがやってみてもいいですか? 『最も古き迷宮』の時みたいに開くかも」
「その手がありましたね」
「うん。フレアよりステラのほうが優秀」
「なんですって!?」
俺もフレアほどではないが身体は頑丈にできている。一発食らっても死にはしない……と思いつつ、恐る恐る扉に触れると。
がこん。
「開きました」
「開いたわね。……ね? 面白いからこれ、今度あいつらに教えてやりましょ?」
「賛成。きっと泣いて喜んでくれると思う」
「意地の悪いことはやめなさい、二人とも……」
とはいえ、無視できるのはおそらく入り口だけだろう。
「私が管理者なら玄関の鍵は本人なら楽に開けられるようにするけど、道中の罠は合言葉かなにか言わないと発動するようにしておく」
「これもあの時と同じですね」
古代魔法王国期の連中はみんな魔法が使えたわけで、玄関に鍵をかけても解錠の魔法で簡単に抜けられてしまう。
だからあれこれ罠を仕掛けて泥棒やら嫌がらせを防いでいたのだ。
「当時は無限の魔力を実現する魔法装置があったから有限の侵入者対無限の家主という構造だったわけだけど、無限の魔力はこの時代には失われている」
「でも、今のわたくしたちにとっては時間経過と共に回復する魔力と妨害だけで十分な障害、というわけね」
通路は三人並んで武器を振るえるくらいに広かった。
石造り。
「入って二歩目、中央あたりにスイッチがあるから避けて。四歩目、右の壁から矢が飛び出してくるから固いもので蓋をして。六歩目、二人以上並んで通ると床から槍が飛び出してくる」
「待ちなさい。なんなの? 神経質なの、ここの持ち主は?」
「仕方ない。そもそも泥棒相手に慈悲なんてあるわけない」
ごもっとも。
……というわけで、俺たちは罠を避け、妨げ、発動条件を満たさないようにしながら進んでいく。
いや、ほんとこれ、一から調べるのめちゃくちゃ大変だぞ。
地図を頼りに進むだけでも一苦労。なかなか先に進めない。
まあ、そんなに急ぐ必要もないんだが。
なにしろアルフレッドたちはもう一つの、未調査の遺跡を攻略している。時間はもっとかかるに決まっている。
それでも、同時攻略なら隣の魔力がこちらに全部使われることもおそらくない。こっちで守護者を倒せば向こうの魔力を削ぐことにも繋がるはず。
「と、出たわね」
罠ラッシュが落ち着いてきた頃、俺たちの前に三体の骨が立ちふさがる。
同じく骨でできた兜、剣、盾、鎧で武装した彼らはただのスケルトンとは威圧感が違う。
「
「相手にとって不足はないわ。ステラ、やるわよ!」
「はい。まだ序盤ですから、なるべく消耗は避けていきましょう」
竜牙兵はアンデッドではなくゴーレムの仲間なので銃が効かない。手早く片付けないと空いた一体がエマ、リーシャを襲いかねないが──。
敵は俺たちの剣を慌てず騒がず盾で受け止めた。
フレアの剣も盾をいくらか削り取り、俺の魔剣は盾にひびを入れたものの、その程度で済んだのがむしろ驚きである。
技術か。……本能のままに動くだけだったドラゴンスケルトンよりもある意味手強い。
もちろん、一対一なら負けはない。相手の剣をいなしながら骨を削り取っていけばいいが、そうしているうちに三体目が前に出ようとして、
「二人とも下がって。《ファイアーボール》」
「ちょっ!?」
奥の三体目に火球が直撃。撒き散らされた炎が他の二体をも巻き込み──俺たちは慌てて飛び退いた。
熱と風に若干の体力を奪われつつもなんとかやりすごして、
「エマ! ちょっと荒っぽすぎない!?」
「ボルトで狙うよりもこっちのほうが魔力効率が良い。閉鎖空間だから特に」
「そうね。おかげであたしたちも巻き込まれそうになったし──ね!」
文句を言いながらも前進したフレアは、ダメージを受けた敵の一体を袈裟斬り。
「まあ、きちんと警告はしてもらいましたので……」
俺も、もともと相手にしていた奴を叩き切った。
「さて」
「数が減ればもう怖くないですね」
竜牙兵(三体目)はばらばらになった。
◇ ◇ ◇
そんなふうにして数度の戦闘と無数の罠を潜り抜けた。
「んー。話の通り、お宝は全部回収済みね」
「敵もかなり強い。『至高の剣』はよくこれを突破できた」
「わたくしたちが消耗しているのは、敢えてすべての部屋を探索しているせいだと思うけれど……」
調査が終わっている代わりに宝はアルフレッドたちが手に入れてしまっている。
それでも全ての部屋を回って確かめてしまうのは冒険者の性。
『最も古き迷宮』なんかは一部の宝が復活するので、それを踏まえた習性と言ってもいい。
ともあれ。
「いざとなれば魔晶を割ってもいい。今回はかなりの報酬が期待できるから」
「なにしろ新規の遺跡の調査と攻略だものね」
今まで特になんの危険もなかった遺跡を必死になって攻略する必要があるのか? というと、答えはイエスだ。
何事もなかったものがある日突然、牙を剥いて来ることはある。例えばあのドラゴンスケルトンのように。
それから、学院が調査するにあたって魔物や罠が生きていてはやりづらい。危険を排除するためにも迷宮の復元機能を停止しないといけない。
後はまあ、冒険者の多くが持ち合わせているロマンというやつだ。
そうして。
「ここ、ですね」
俺たちは最奥の部屋の入り口にたどり着いた。
「この奥に守護者がいて遺跡の核があるのね。……倒しちゃっていいのよね?」
「構わない。短期間に何度も緊急措置が取られれば、さすがに向こうの遺跡の魔力が危うくなるはず」
「なんなら、復活した守護者をもう一度倒してもいいわけだものね」
アルフレッドたちが苦戦した相手を二回も倒すつもりか。
……と言っても、実のところここの守護者はあいつらよりも俺たちと相性のいい敵だったりする。
生物で、炎が効き、的も大きい。
前もって聞いた話によると、ここの守護者は、
『サイクロプスだ』
簡単に言うと大きな一つの目を持つ巨人、あるいは鬼だ。
『至高の剣』が出会った敵のサイズは人の三倍以上。
右手に簡素なこん棒を手にしているだけのシンプルなスタイルだが──身長五〜六メートルの巨人が持つこん棒はぶっちゃけ丸太並だ。
そんなもので殴られた日にはひどいことになるに決まっているし、
『しかも、奴は再生する。せっかくつけた傷が治り始めるのを見て僕は正直絶望しそうになったよ』
サイクロプス殺し。
達成できれば十分に自慢していいレベルの難行である。
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