ライバルパーティ『至高の剣』
一日おきにフレア、エマ、リーシャから教えを受けるのを数セット。
訓練の成果か、それとも三人の変態性を知ることで『秘蹟』の効果が発動しているのか、たぶん後者だが、俺のステータスは上昇を続けていた。
数値に17が多くなり、一番低いステータスでも15。
ここまで来ると少しは周りにも自慢できそうだ。
が、その代わりに、
「……身体の節々が痛いです」
「これは成長痛ですね。傷ではないので、奇跡でも一時的に痛みを取ることしかできません」
「その歳で成長痛なんて珍しいわね。それだけステラの力が伸びてるってことか」
体力は残っているのに身体が悲鳴を上げる、という珍しい事態に見舞われてしまった。
作り変わる速度が急すぎて支障が出ているらしい。
その割に身長が伸びる気配はないのだが。一月足らずで筋力が3も伸びれば子供の成長期とそう変わりない。
「とりあえず今日はゆっくりするべき」
「そうね。別に急いでるわけじゃなし。そうだ、また甘いものでも食べに行きましょうか?」
「すみません、せっかくのお誘いですが動く気力が……」
「これはなかなか重症ですね……」
フレアたちから許可も出たので一日ゆっくりすることに。
朝食を食べ終えた俺は「部屋で休みます」と立ち上がって、
「添い寝してあげようか?」
「私も」
「わたくしも」
「お気持ちだけで結構です……っ!」
ベッドに入って目を閉じるとあっという間に眠気がやってきた。
寝る子は育つ。子供っぽいと考えるとアレだが、すぐ眠れるのは冒険者の必須技能の一つだ。休める時に休まないと蓄積した疲労ですぐにガタが来る。
一方、なにかあった時にすぐ起きられるのも重要な技能で、
「あの、ステラさん! ごめんなさい、起きてください!」
「……ん」
看板娘のセリーナの声で俺は目覚めた。
もう少し寝たら昼食時、といった頃合いか。眠気の残る声で「はい」と答え、もぞもぞとベッドを下りる。
ドアを開けると、宿の看板娘(16)は俺を見て目を瞬いた。
「ステラさん。服が」
「え? ……ああ、すみません」
服が乱れて下着が見えていた。まあ同性だし見られても問題ないだろう、と、特に慌てることもなく服を整えて。
髪を手で撫でつけながら「なにかあったんですか?」と尋ねる。
「……あ、そうでした! 大変なんです! とにかく来てください! えっと、身だしなみを整えてから」
「あ、はい」
リーシャの荷物から手鏡を引っ張り出した俺は、セリーナに櫛を通してもらい階下へ下りた。
すると。
「……いったいなにが?」
フレアたち『
◇ ◇ ◇
「ああ、来てくれたんだね。初めまして、ステラ。僕は『至高の剣』のリーダーを務める──」
「聖剣士アルフレッド」
「──知っていてくれたのか。光栄だね。それなら話が早い」
宿の一階にある酒場に襲来したのは『至高の剣』。
二十歳の剣士アルフレッドを筆頭に、二十二歳槍使い兼盗賊、二十歳の聖職者、年齢不詳の精霊使いという三人の女で構成された冒険者パーティだ。
女三人もなかなかの使い手かつ、フレアたちには及ばないまでもかなりの美人だが、彼女らは全員、リーダーであるアルフレッドとできているとの噂。
俺としてはこのリーダーに対して若干の憧れと尊敬、それから多大なる「ふざけんなこのハーレム野郎!」という憤りを覚えていた。
そんな奴らがなぜ、俺たちの宿に。
「ステラ。君さえ良ければ僕達『至高の剣』の仲間になってくれないか?」
「は?」
長身かつイケメン、しかも有能という嫌味な男は、俺をまっすぐに見つめるとわけのわからないことを言い放った。
なにかと思えば……スカウトだと?
しかもフレアたちではなく俺を?
呆然としていると、フレアがふん、と息を吐いて。
「こいつらいきなりやってきて『ステラをよこせ』って言いやがったのよ」
普段は若干眠そうなエマも漆黒の瞳で彼らを睨みつけ、温厚なリーシャでさえ地母神の聖印を握りしめて、
「傲岸不遜」
「せめて筋を通していただきたいと抗議していたところです」
「……その、どうしてまた、わたしを?」
誰かと間違っていないかと思い尋ねれば、アルフレッドは「簡単なことさ」と髪をかき上げて、
「君の才能が欲しい。是非、僕達に力を貸して欲しいんだ」
「ああ。……わたしの『
考えてみれば納得である。
俺の二つ目の『秘蹟』──『万能鍵』については冒険者ギルド、学院、神殿に報告を済ませている。それも三箇所同時に、だ。
同時とは「同日に連続して」ではなく、同じ時間にフレアがギルドへ、エマが学院へ、リーシャが神殿へ行って報告したということ。
どうしてそんな手間をかけたかと言えば、各組織でにらみ合いを起こさせるためだ。
あの『秘蹟』は適用範囲がどこまでなのかわかっていない。
少なくとも遺跡の管理者権限を突破できそうなことは確定。この時点で『最も古き迷宮』の探索を進める鍵になりうる。
冒険者ギルドと学院からすれば「ぜひうちに協力を!」と言いたいところだろうし、神殿だってあの迷宮を機能停止させ街の安全を確保しようと動くかもしれない。
なので、俺の取り合いが起こらないように全部に釘を刺したのだ。
アルフレッドもこれを否定せず、
「それが全てではないが、もちろんそれもあるよ」
「あんたたちはそれをどこから聞いたわけ? ギルド? それとも至高神の神殿かしら」
パーティ名が示す通り、アルフレッドは至高神の信徒だ。その教義は『正義』。
悪しき者を征し弱きを助ける善の神だが、その信徒は暑苦しい奴が多い。
「ギルドさ。上位のパーティだけに内密で、と話があった」
「ああ。そういえばあなたたちはこの街で第四位だっけ」
ちなみに俺たちは第三位。
この間のキマイラ討伐と隠し部屋発見で貢献度を稼いだ結果、三位を押しのけて昇格したばかり。つまり押しのけられたのが『至高の剣』だ。
いや、バチバチの因縁じゃねえか。
「っ。……三位昇格おめでとう。僕達もますます頑張らないといけないな」
「で、その四位様がなんなわけ? ステラはうちの大切な仲間なんですけど」
「だから、スカウトに来たんだ。ステラ。君が欲しい。待遇は今よりも良くする。決して退屈もさせない。どうだろうか?」
俺は「……えっと」と適当に返答を引き伸ばしつつ、周りを見た。
フレアたちは三人揃って「嫌だと言ってやれ!」という顔。
アルフレッドはイケメンオーラ全開にしてこっちを口説きにかかっている。
後ろの女たちからは──強烈な敵意。一見普通にしているように見えるが、殺意すら籠もっているんじゃないかと思うほどのプレッシャーが来ている。
なんだこれ。
って、考えるまでもなく「私の男を取るな」って話か。
女の嫉妬なんて男だった頃はわからなかった。いや、そんなもの感じる機会がそもそもなかったが。……自分で言ってて悲しくなってきたが、ほら、他人の痴話喧嘩を見る機会はあったわけで。
当事者、それも嫉妬される側になると意外とわかるものだ。
というわけで、OKする要素がない。
「お断りします」
「なっ。……何故だい? 確かに『三乙女』は強い。でも君は勇者志望だろう? なら、世に正義を知らしめるためにも『至高の剣』に」
「すみませんが、わたしはフレアさん、エマさん、リーシャさんの力になりたいので」
きっぱり答えた俺をリーシャが抱き寄せて「そういうことです」と微笑む。
「わたくしたちの妹に手出しをしないでください」
「っ」
アルフレッドの端正な顔立ちが歪む。
反対に、女性陣は「なんだ、話がわかりそうじゃない」みたいな顔をする。その、なんだ、女のドロドロした話はよそでやってくれないか。
ともあれ『至高の剣』ご一行様は「邪魔したね」と去っていき、残された俺はフレアとエマからさらに抱きしめられた。
「信じてたわ! ……でも、良かったの? あいつ客観的に見たらかなりイケメンじゃない」
「女癖以外は優良物件」
「いいんです。わたし、男性には興味ありませんので」
なにしろ中身が男だ。イケメンとか敵でしかない。タンスの角に指をぶつけてぴょんぴょん跳ねればいいのに。
ああいうのがいるから世に可愛い女の子が出回らないんだと思──。
「ふうん? ……ね? つまりそれって、女の子のほうがいいってこと?」
「それは好都合」
「ステラさんはわたくしたちの仲間にぴったりでしたね」
待て、それはその通りだが若干語弊があるような気がするぞ。
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