第14話 西園寺への違和感

 潤とは教室まで一緒に行った。途中で西園寺は別の教室に入った。違うクラスだからだ。


 いったん西園寺と離れはするものの、護衛の任務は継続している。遠くにいてもしっかり見守っているらしい。


「僕は深く追及していないけど、いろいろ策を講じているみたいなんだよね」

「恐ろしいな」

「でも、頼もしくはあるよ。物騒な世の中だもんね」

「価値観は人それぞれだな」

「そうだね。男だからって、絶対に護衛官をつけなきゃいけないわけでもないしね」


 さきほどの西園寺は、護衛官についてたいそう熱く語っていた。熱量にやられた。


 自由奔放、ルールより自身の願いを優先する千夏とは真反対にいるといっていいだろう。


 教室には、すでに剣聖がいた。剣聖は開口一番、潤のことに触れていた。


「課題のノートとか伝達事項とか、おおかたまとめてあるから後でデータを送っとくよ」

「もう用意があるの?」

「完璧さ。休んだ後にどうなるかぐらい、先に考えてるよ」

「本当に助かるよ。さすが剣聖くんだね」


 無言で首をうんうん、と振って、俺も同意した。


 イケメンで気配りができて性格がいい。神は二物を与えないなんて嘘っぱちだ。剣聖が格好の反例だ。


 剣聖と同等にはなれないにせよ、学ぶべきところはたくさんある。


「困ったときは助け合いだよ」

「さらっとそういえるようになりたいものだよ」

「颯汰もいけるさ。慣れの問題もあるだろうしね」

「そうだな」


 男子の中で内々で会話をしていると、すぐに予鈴が鳴ってしまった。時間差登校により、教室への到着が後ろ倒しになっていた。


 話が落ち着いてから着席した。ホームルーム開始まで律儀に待つ。


 ぼんやりとしていると、誰かの視線を感じた。潤や剣聖ではない。となれば、女子から向けれているものとみてよかろう。


 視線を送っていたのは、千夏と継実。いうまでもなく、昨日のことについていろいろ話したくて仕方ないのだろう。


 朝のホームルームが終わると、案の定ふたりが話しかけてきた。あまり目立たぬよう、廊下の方で。


「きのうはほんと楽しかったよ、颯汰くん」

「こちらこそ。まさか、継実があんなタイプだったとはね」

「なによあんなタイプって!? あたしは純粋無垢でよわよわな乙女なんだけど!?」

「どこが純粋無垢なの。この変態」

「えー、千夏は手厳しいなぁ」

「交流の薄いクラスメイトに胸を押し当てて誘惑するなんて、正気の沙汰じゃないと思うんだよ」

「少々暴走気味だったのは認める。だから、私と千夏の仲に免じて許してよぉ、的な」


 千夏はしぶしぶながらもわかった、とうなずいていた。


 あれのどこが「少々」暴走気味なのかは考える余地がありそうだ。継実が男をふつうに狙ってくるタイプと割れた以上、今後は違った心持ちで接することができそうだ。


 継実に心を突き動かされそうになった暁には、千夏による制裁は不可避とみていいだろう。今後も注意を払っていく必要がありそうだ。


「今度は颯汰くんとふたりきりで……」

「却下。大事な幼馴染にトラウマでも植え付けられたら、継実でも許せなくなる。最悪絶縁もあるかも」

「うん、そうだよね。いわれれてもおかしくないとは思った」


 そこまで徹底している千夏はさすがというほかあるまい。


「ふたりきりは控えるけどさ。颯汰くんとはこれでもうズッ友認定かな」

「ズッ友……? めっちゃ軽くないか」

「心が通えば、それはもうズッ友なんだよ? だから、これからもフランクにいくからね」

「そういうことなら」

「やった〜!」


 距離感をガンガン詰めてくるタイプとは思っていたが、想定以上のようだ。


 そんなところで、継実は別の友達のところへと向かっていった。


「さっきもいったけど、継実が相手でもふたりきりになるのはやめてほしいな」

「護衛対象の安全のためか」

「少々の私情もあるよ。そーくんが誰かとふたりきりだと、私の中の悪魔が呼び起こされそうで怖いからね! 嫌でしょ、私が顔を歪ませたところなんて」

「なるたけ避けたいよ」

「だよね。だから、よろしくね? ねっ」


 そう強く念押しされた。


「でさ、話は変わるけど」


 一気に真面目なトーンになる。


「西園寺まもりとは接触した?」

「あぁ。音もなく背後を取られた」


 潤と会って、その際に西園寺とも顔を合わせた。そのあたりの下りを説明していく。


「なにかおかしなところはなかった?」

「とくに……いや、ひとつあるか」

「教えて」


 西園寺と別れる際に、校内の風紀がどうかと問われた。そして、俺に対してなにもないかとも問われた。


「まずいかも」

「そうなのか」

「何気なく聞かれた、とそーくんは思ったかもしれない。でも、西園寺さんにとっては決定的なひと言。狙った獲物は逃さない、あの女ならね」


 千夏の口調に焦りがみられるあたり、西園寺がなにかを掴んでいるかもしれない。


 だとしたら大問題だ。護衛官に強い矜持を抱いている西園寺。不正を見過ごすはずもない。


「ともかく、しばらくは気をつけないとね。登校時間もいままで通りの時間差作戦で。一緒に出かけるのも、なるたけ避けないとね」

「違反者の生活ってのは、どうにも縛られるらしい」

「仕方ないの。なにかを得たいなら、なにかを捨てなきゃいけない。それが相場なんだから」

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