第5話 障壁の魔女と戦の国の王

自分には人と違う力があると気づいたのはいつだったか。

物心ついた時からいじめられていた。

石を投げられて目をギュッと瞑ったら、石が落ちていた。

目の前に透明な壁があるようだった。

だから更に石を投げられた。


子供達は残酷で、弱いと見るや、倒れるまで攻撃する。

魔女は逃げて逃げて追い詰められて、身を守り、

また逃げて逃げて、休まる時がなかった。


その日お忍びできた高貴な子供は違った。

大変だったね、もう大丈夫だよ、誰にも君を傷つけさせない、

そう甘い言葉を囁いて、魔女を守った。

それから魔女はその子の側にいるようになった。


高貴な子供は兄弟達を蹴落として、王になった。

魔女はずっと側にいた。

王は約束通り魔女を庇い、魔女を悪く言う者はいなくなった。

魔女は王の側にいて、暗殺者からも、反乱軍からも、王を守った。


いつしか王は傲慢になり、都はきらびやかに、地方は疲弊していった。

いつしか国は傲慢になり、他国に負担を強いて、自国の利益を優先した。

それでも魔女は王を守っていた。


他国に攻め込まれて幾度目か。

魔女は当たり前のように防衛に行き、その隙に都が急襲を受けた。

王はかろうじて脱出したようで、人伝に魔女にしんがりを頼んできた。

王城が敵軍に囲まれた時、魔女は当たり前のように城を守っていた。


「あいつの首を取れ!あいつさえ倒せばこの国は終わる!」

どれだけの大軍が押し寄せようが、障壁はびくともしない。


その時、後ろから魔女の首にナイフが突きつけられた。

動揺して障壁が揺らぐ。

「どうして…。」

「あなたを手土産に亡命しようと思いまして。」

いつも王に小言を言う陰険眼鏡だった。


「あなたがいると戦が終わらないんですよ。強いものが勝ち、弱いものが負ける、それが一番の近道なんです。少し休んでいてくれませんか。」

「こんなことをして敵国が受け入れると思わないわ。」

「やってみなければ分かりませんよ。」


敵国の攻撃は止まっている。

魔女はとりあえず陰険眼鏡が敵国の王に謁見するのについていった。


「どう言うつもりだ」

「戦を終わらせたいのです。国も民も疲弊しています。私を人質に魔女を無力化できるなら安いものだと思いませんか」

「魔女がお前を助ける道理がない。お前を殺して魔女を倒した方が安全だ」

「無理ですね。この人は情が深くて、こんな裏切り者でも見捨てることができないんですよ。」


王の目配せで突然兵士が陰険眼鏡に斬りかかったが、刃は障壁に阻まれて届かなかった。

「ほら、亡命なんてできっこない。帰りましょう。」

「ほらね。」

陰険眼鏡は魔女を無視して敵国の王に言う。

「お前の言い分は分かった。魔女と話はできるか。」

亡命は成立したようだった。


「お前に聞きたいことがある」

王は人払いをして言った。


「お前、逃げた王のどこが良いんだ?何でずっとこの国を守っているんだ?」


「だって、あの人は、私を守ってくれるし、悪口言う人も虐める人もみんな追い払ってくれるし、優しいし、ずっと一緒だよって言ってくれるし、都は住み心地がいいし、ご飯美味しいし…」

「ガキかっ!」

敵国の王は天を仰いで大きくため息を吐いた。


「あのなぁ、利用されてるの分かるだろう。普通に王妃3人いるし、都の暮らしと国境の暮らしが酷く違うのも分かるだろう。お前都合のいい盾だぞ」

「でも…好きなの。愛してくれなくても、今のままで十分なの。」

「初恋っていうのは実らないものなんだよ。メガネが正しい。不毛なことに首突っ込んでないで、ここで少し世の中が平和になるのを見とけ。分かったな。」

「…うん。」


魔女は失恋し、戦は終わった。

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