三章 怪しい依頼を受けました
第8話 毒使いは依頼を受けたい
綺麗に整備された石畳の道を挟んで、宿屋や商店など色とりどりの建物が立ち並ぶ。街行く人の数もこれまでとは大きく違う。
「ほぉぉ……ここがレオンバートですか」
シャルが言った。
レオンバートは、フロムさんのいた村とは警備隊の管轄が違う。念には念を入れ、数日かけてここまでやっとたどり着いた。
「ここなら警備に追われることもない。能力を晒す下手さえしなければ、普通に過ごせ……」
その時、近くの話し声が耳に入った。
「なあ、聞いたか? 『金眼の毒使い』と『漆黒のドレインヒーラー』の話!」
ん……?
「え、何それ?」
「正体不明の2人組なんだけど、村で悪事を働いてた薬屋を捕まえたらしいんだよ」
うん、何だか身に覚えのある話だ。
「で! その方法っていうのが、ドレインヒールで生命力を奪って瀕死にしたところで、さらに毒を飲ませて脅したって!」
いや、そこまでやってないから!??
「2人について分かっているのは、毒使いの目が金色ってことと、ヒーラーの何かが黒いことだけらしいよ」
「毒使いとドレインヒールって、そんな能力なら逃げ出したFランク能力者かもな。捕まえたら国から報奨金もらえるんだろ?」
「ま、Bランクの俺たちじゃ敵わないって」
自分で能力を晒したんだから自業自得だ。うん、仕方ない。仕方ないんだけど……広まるの早くない!?
「リップ君……?」
シャルが不思議そうに首を傾げる。
「あ、いや何でもない! とにかく、能力がバレないように気をつけよう!」
俺の目は普段黒色だし、シャルの漆黒要素が髪色だということも知られていない。普通にしていれば気づかれない、はず。
「とりあえず、今の俺たちは早急にやらないといけないことがある」
「何ですか?」
「お金を稼ぐことだ」
この街に着くまでに、食事代やら宿代やらで持ち金のほとんどが尽きてしまった。英雄に選ばれるために他のFランク能力者や魔王と戦うという事を考えると、防具や武器の用意も必要になる。そもそも今日の食事だってままならない状況だ。
「こういう大きな街の掲示板にはいろいろな依頼が集まるんだよ。いくつか依頼を受けてお金を稼ぐ」
「なるほど」
広場に設置された掲示板にはたくさんの依頼書が貼り付けられていた。
「えっと、『麦の収穫手伝い』3,000エリー、『モンスター討伐』20,000エリー……」
ここに集まるのは個人の依頼がほとんどだ。依頼の範囲も報酬の程度もさまざま。だからこそ、ランクカードを提示できず、普通の仕事に就くことのできない俺達にはぴったりだ。
出来れば短期間で大金を稼ぎたいが、モンスター討伐で20,000エリーぽっちじゃ割に合わない。
ざっと掲示板に目を通していると、一つ異様なものがあった。
「これなんかよさそうじゃないですか?」
そう言ってシャルが、その依頼書を指さす。
『石像の撤去 500,000エリー』
ただ石像を片付けるだけで500,000エリー? 0の数を書き間違えたんじゃないか?
その依頼書に上から目を通す。
『急募!』
『未経験者大歓迎!』
『アットホームな職場です!』
「怪しすぎる……」
「私、片付けは得意なのでお役に立てるかもしれません!」
隣からはやる気に満ちた瞳が俺を見つめてくる。シャルはもっと疑う事を覚えた方がいい。
本当にただ石像の撤去ならこんなに高額な報酬を出す必要はない。よっぽどのお金持ちが世間の相場も知らずに金額を付けたのか、あるいはここに書かれていない本当の依頼内容があるのか。
さらに依頼書を下まで見ていく。
『※
「よし、これにしよう」
「はい! 頑張ります!」
今朝から何も食べていない腹をさする。やっぱり、腹が減っては戦えないからな。
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