第5話 春瀬陽太

「るーちゃん、大丈夫....?」

「もう電車嫌だ」

だろうね、あんな思いしてまた乗りたいと思えるやつがいたとしたら、そいつはとんでもなく肝が据わっているだろう。

「ごめん、未然に防いであげられなくて、起きた後、すぐ助けてあげられなくて」

「紗英はわるく、ないよ....。私が悪いんだ。私が、恐怖心に抗えなくて、声を発せなかったから.....」

その言葉を発する声は弱弱しく、とても震えていた。目も、今にも泣きだしそうな顔をしている。守れなかった今の私にこんなことをする資格はないかもしれない。けど、

「.....泣きたいなら、泣いていいんだよ。と違って、今は受け止めてあげれる人が、ここにいるんだから」

そう言ってしまう。やっぱり、いつだってるーちゃんの悲しい顔などは見たくない。

「う、う、ううっ.....こわかった、こわかったよ....さえ、ぐすっ、こわかったから、きょうは、ずーっといっしょにいてぇ」

そんな顔をされて断れる人なんか、いるわけないでしょ。

「もちろん。私が、次こそるーちゃんを守る。あんな奴らにはもう二度と、指一本も触れさせないよ」

「不安になって様子を見に来てみましたが、杞憂だったようですね」

そういって、近寄ってきたのはさっきの青年だ。

「....るーちゃんにそれ以上近寄らないで」

さっきの一件で私は、男というのを過剰に警戒するようになってしまったようだ。

「いやあ、僕は手出しするつもりありませんよ。あの痴漢魔ほど性欲もありませんし」

「さ、さえ」

「ん?どうしたの、るーちゃん?」

「その人、悪い人じゃない.....」

るーちゃんはまるで何かを知っている口ぶりだ。

「るーちゃん、何か知ってるの?」

「うん、この人は、わ、私の幼いころの家庭教師だった、春瀬、陽太先生....」

「まさか、まだ覚えててくれたなんて....ありがとうございます、瑠依さん。そして、初めまして、ですね。あなたは。紹介にも預かりました、春瀬陽太はるせようたです」

「涼谷紗英です。先ほどの態度、謝罪させていただきます。どうかお許しを」

「いえ、涼谷さんにとっては初めて会う相手なので、警戒はあってしかるべきものですよ」

「そ、そういえば、春瀬先生....今も、家庭教師を続けているんですか?」

「....いいえ。なぜだかわかりませんが、今は女子高で教鞭をとってますよ」

なにがあったら家庭教師から女子高の教師になるんだよ。

「そ、そうですか、そこって、何て名前の学校ですか?」

「....美嶺学園みれいがくえん、です」

ッ、そこって名門の女子高じゃないですかーーー!そんなとこに毎日行けるなんてうらやま案件なんですが????????

「まあ、機会があれば遊びに来てください。歓迎しますので♪」


会話が終わるころには、彼、春瀬陽太への不信感はなくなっていた。彼の性格は優しく、丁寧だ。そういった部分がるーちゃんにも移ったんだろうね。


さてと、ハッピーエンドみたいな雰囲気出てますけど。まだ本題達成できてないからね?ようやく、るーちゃんと買い物デートだ!!

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