42話・学園祭
「俺に何かしてほしいことがあるとか?」
出来れば険しい表情はやめて欲しい。
眉間に皺を寄せて、人の顔を見上げる女子生徒は何処までついてくる気でいるのか。
寝室で二人きりになることは避けたい。
女子生徒の目的が分からずに、取りあえず機嫌を取ろうとしてみれば
「射的」
相談事ではなく、目の前の射的を指差した女子生徒は、巨大な熊のぬいぐるみを指差した。
景品を取って欲しいのかと思い、巨大な熊の足元に佇む小さな的に狙いを定める。
一発で命中。
軽快な音を立て放たれた玉は一直線に小さな的に向かい、難なく的を倒す。
途端に沸き上がった歓声は、一条や理人や妙子が上げたもの。
テキ屋のお兄さんが拍手と共に巨大な熊のぬいぐるみの元へ歩み寄る。
周囲で様子を伺っていた学生が数名、小さな拍手をしているものの無言。
視線を向けてみるけど、素早く目線を逸らす学生達の行動により目が合わない。
「有り難うございます」
テキ屋のお兄さんから、巨大な熊のぬいぐるみを受け取って、女子生徒の霊に視線を移してみれば
「その子にあげればいい」
妙子を指差す女子生徒の考えが、本当に分からない。
理由も分からずに霊に憑きまとわれることは今回が初めてのことで、この状況がいつまで続くのか分からないのが怖い。
「どうぞ」
女子生徒の指示通り妙子に巨大な熊のぬいぐるみを渡す。
「あ……有り難う」
緊張した面持ちで、決して俺に視線を合わすことなく深々と礼をした妙子は、巨大な熊のぬいぐるみを両腕でしっかりと抱えている。
巨大な熊のぬいぐるみを抱き抱えて校内を歩き回るのは良く目立つ。
慌ただしい足音と共に職員室から足を踏み出して、素早く廊下を移動。正面玄関から外へ飛び出した女性教師が凄まじい勢いで歩み寄ってきた。
「学園祭に来てくれたのね! 案内するわ」
大勢の生徒達の視線を集めるのは、普段は厳しく真面目で、もしかしたら無愛想なのかな。取っつきにくい人何だと思う。
少し前に病室で出合った女性が、俺の目の前で立ち止まる。
「片桐先生が笑顔なんて、何か怖いんだけど……」
寒気がするとでも言いたそうなジェスチャーをする女子高生の本音を耳にして、友人が同意をするようにして頷いた。
片桐愛音さんとの出合いは、衝撃的なものだった。
思い起こすことすら許されないような、彼女にとっては恥ずかしい出来事だったに違いない。
「普段はクールな片桐先生がイケメン二人と話してる」
女子高生の視線は一条と理人に釘付けである。
イケメン二人と口にした女子高生の言葉を耳にして、妙子の表情が変化する。
鼻の穴が開き、にんまりとした表情を浮かべる妙子が小刻みに肩を揺らす。
「残念。イケメン枠に入れなかったわね」
人のことを茶化す妙子の視線が、俺の背後に移った途端。
一体、妙子は何を見たのか。
ひゅっと息を呑み込んだ妙子の表情が瞬く間に変化する。
顔面蒼白になった妙子が一歩二歩と足を引き、怯えた様子で項垂れる。
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