43話・学園祭
青白い顔を俯かせ、妙子を真っ直ぐ見つめる女子生徒の霊は無言。
言いたいことがあるのなら口にすれば良いのに、不貞腐れた表情を浮かべている。
「もしかして、何か見えている? 大丈夫?」
妙子の表情と、俺の表情を交互に見て疑問を口にした片桐先生は首をかしげる素振りを見せる。
「駅のホームにいた女子生徒の霊が、俺達について来てしまっている状態なんだ。チェックの短いスカートはピンクと灰色。同じくピンクと灰色のチェックのリボンを身に付けている。白いブラウスと胸元に馬……? 動物をモチーフにした紋様が描かれている学校の校章が付いているんだけど、もしも情報があるなら教えて欲しい」
ここら周辺の学校に詳しいだろうか。
学園の教師を務めている女性に、女子生徒の学校を特定したくて問いかけてみれば
「東陽下高校ね」
片桐先生が思い当たる高校の名前を即答する。
やはり、教師に聞いて正解だった。
東陽下は初めて耳にする高校の名前だけど、近くにあるのだろう。
「東陽下高校に行けば、女子生徒の情報が得られるかもしれないな」
女子生徒の霊を横目に見て、考えを口にしたところで
「確か、東陽下高校は10年前に廃校になったと思う」
思わぬ事実を耳にして頭を悩ますことになる。
「廃校かぁ」
片桐先生が続けた言葉を耳にして、妙子の表情が曇った。
女子生徒が命を落としてから10年の月日が立っていることが分かった。
事故であれば、新聞を遡れば名前を知ることが出来るかもしれないと思っていたけれど、彼女が亡くなった日時が分からない。
「フランクフルト」
左右をゆっくり見渡していた女子生徒の霊が、フランクフルトの屋台を発見して呟いた。
「隣にアメリカンドックもある」
彼女が何故俺の好物を知っているのか分からない。
たまたまかも知れないけれど、フランクフルトやアメリカンドックは幼い頃から良く食べていた。
「ここ最近食べる機会がなかったけど、久々に食べてみるか」
ケチャップとマスタードをかけて食べるのが好きだった。
小さな頃は良く食べていたけれど、歳を重ねるうちに食べる機会の減ったフランクフルトとアメリカンドックを求めて促されるがまま、方向転換をする。
屋台に向かって足を進める女子生徒の霊に続き、屋台まで素早く移動。屋台の前で立ち止まり、注文を行おうとしたところで、理人が俺の異変に気がついた。
驚いたように目を見開いた後に、小刻みに肩を揺らす理人は素早く状況を理解してくれたようで
「突然歩き出すから驚いたよ。君は見えているからいいけど、僕らは見えていないからね。一言声をかけてくれると嬉しいな」
無言のまま足を進めたため、理人や一条を酷く驚かせてしまった。
理人に注意を促されて
「ごめん。次から気を付ける」
素直に謝罪する。
「へぇ。意外だね。フランクフルトとアメリカンドックが好きなんだね」
理人や一条の後に続いて、片桐先生が俺の目の前に素早く移動。
「フランクフルトを5本ください」
人数分のフランクフルトを頼んでくれる。
ちゃっかりと自分の分も含めている片桐先生は、素早く財布を取り出した。
「数日前に迷惑をかけてしまったから、おごらせてよ。今後とも弟を宜しくねって意味も込めて、アメリカンドックも私が支払うからね」
少々強引な性格をした片桐先生が、フランクフルトの代金を素早く支払うと続けてアメリカンドックを5本注文してくれる。
自分達の分まで良いのだろうかと、疑問を抱く理人と一条が互いに顔を見合わせた。
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