36話・学園祭

「私たちも学園祭に行きましょうか」

 小声で会話をする女子生徒は、理人の背中を目で追いかける。

「行こう! 理人君の私服が見れるかもしれないね。楽しみだね」

 友人の誘いに対して女子生徒は即答する。

 理人が教室から足を踏み出したところで、室内に広がっていた緊張感が和らいだ。


「なんだか面白そうだな。俺たちも行こうぜ」

 男子生徒の問いかけに対して、友人が小刻みに肩を揺らして笑う。

 

「屋台が沢山並ぶって言ってたな。俺たちも行こう」

 食い意地を張る男子生徒が友人を誘うことにより、学園祭へ行こうとする生徒の数が増える。


「皆行くのなら僕も行こうかな」

 次から次に学園祭に参加すると口にする生徒達で、教室内は賑わいを見せる。


 前方にある扉から理人が教室を出た直後に、後方の扉から奇妙な顔をする妙子が教室内に足を踏み入れた。


「ねぇ。理人君に学園祭に誘われたんだってね?」

 こっそりと、理人との会話を盗み聞きしていたようで、にやにやと締まりのない表情を浮かべる妙子が歩み寄る。

 

「あぁ。まさか、誘って貰えるとは思わなくて、流石に驚いた」

 妙子とは教室内で会話をすることはあるけれど、他にもクラスメート達が室内にいる中で話をするのは初めての事。

 理人が教室を立ち去ったことで、クラスメートの視線が外れて安堵していれば、今度は意外と校内で男子生徒達からの人気を集める妙子に声をかけられたことで、再びクラスメート達の視線を浴びることになる。

 男子生徒達に人気のある妙子に声をかけられているからって、嫉妬し睨み付けられることは無かったものの、室内にどよめきが起こる。


「友人と出かけるのは初めてじゃない?」

 妙子の問いかけに対して疑問を抱く。


「理人や一条は別に友人では……」

 友人ではないと言いかけたところで

「私以外の初めての友達じゃない?」

 にやにやと締まりのない顔をする妙子に言葉を遮られる。

 勝手に友人だと思うことは出来ない。相手はそう思っていないかもしれないし。

 単に霊が見えるから、物珍しがっているだけだと思う。

 一時いっときだけの興味を抱いてくれたのだろうけど、すぐに飽きるだろう。


 クラスメート達の視線を一身に集める妙子は急に真面目な顔をする。


「私も誘ってよ。理人君や一条君には俺の友達を誘ってもいいかって聞いてみて」

 言いたいことは伝えたと、清々しい顔をする妙子の言葉を耳にして

「はぁ……」

 随分と間の抜けた声が出た。

 

「後で明日の何時に集合か教えてね」

 笑顔を見せる妙子は理人や一条と共に学園祭に行く気満々。

 

「分かった」

 決して機嫌が悪いわけではないけど、自分で思っていたよりも低い声が出た。

 

「へぇ、断らないんだ」

 こっそりと、妙子との会話を耳にしていた男子生徒が素直な感想を口にする。

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