【菊】あなたを愛しています

 ――――壱年後。


 甘やかな微睡みから、ふわりと浮上する。瞼を透かして朝日が降り注ぐのを感じ、私は何度か瞬きをしてから目を開けた。目の前には榧様の端正なお顔。伏せた睫毛のひとすじまでもが綺麗で、思わず時間も忘れて見入ってしまう。

 どれくらい見つめていただろう。榧様の口元が、ふと笑みの形に緩んだ。


「……ふふ。あまり見つめられると、起きるに困るよ」

「ごめんなさい。珍しく寝顔を見られたものですから」


 榧様は私の頭を引き寄せると挨拶代わりに口づけをした。触れるだけのものから、次第に深く、甘くなっていく。


「んっ……榧様、お支度を……」

「まだ早いよ」

「でも……っ」


 逃れようとする私の言い訳ごと、榧様の唇が塞いで飲み込んだ。

 体を弄る手は熱く、優しいのに獰猛で、私は為す術なくとかされていく。


「可愛いお蘭、良く顔を見せておくれ」


 身を捩る私に覆い被さり、間近に顔を寄せてじっと見下ろす。起きたばかりなのにその目は既に夜の色を帯びていて、私は身を震わせた。


「お蘭も期待しているじゃないか」

「そ、それは……榧様が、あまりにも艶っぽくていらっしゃるから……」


 恥じらいながら答えると榧様は驚いたように目を見開いてから、ふっと微笑んだ。ただそれだけで、私の心臓は切なく高鳴る。


「ならば、何の問題もないね。そうだろう?」


 頬を包みながら囁く榧様に、私は小さく頷いた。

 乱れたままの着物をすっかりはだけさせ、榧様の舌が首筋をねっとりと這う。喉を甘噛みされ、体がヒクヒクと跳ねた。私の中心はいつの間にか天を仰いでおり、腰が揺れる度榧様の肌に触れる。それが心地良くて腰を浮かせて擦りつけていると榧様の手が濡れた芯を包んで撫でた。


「ふぁ……っあ、あんっ」


 とろりと溢れる淫蜜を擦り付けるように、湿った音を立てながら上下に扱く。指の腹で先端を撫でては、蜜の出口を執拗に刺激する。そうして催促されるままに濡れる私を見下ろし、榧様はうっとりと微笑んだ。


「お蘭はとても淫猥な子だね。少し触れただけでこんなにも乱れて……」

「あ、ぁっ……だ、って……榧様、っ……ふぁあっ」


 とろける意識の中どうにか言い訳を紡ごうとしたとき、中に指を差し入れられた。紡ぎかけた言葉は媚びた嬌声に変わり、押し出されるようにして芯から蜜が零れた。


「そんなに好くなりたいなら、またあの薬を使おうか。お蘭はあれが好きだからね」

「ひっ、あっ……あ、あっ、あんっ」


 ぐちぐちと中をかき混ぜていた指を一度抜き、榧様は楽しそうに薬指で例の軟膏を掬うと私の中へと塗りつけた。じわりと薬がとけて、体の中に馴染んでいく。

 榧様の指が中で蠢き、出し入れする度に卑猥な濡れた音を奏でる。震える芯も胸の蕾も全く触れずに、榧様は私の中だけを執拗に責め立てた。


「あぁっ、あっあッ、ふぁ、あっ……かや、さまぁっ」


 きゅうっと指を締め付け、腰を浮かせてガクガクと震えながら私は果てた。白濁を吐き出すことが出来なかった芯は切なげに震え、弛緩し褥に落ちた体はまだヒクヒク痙攣し続けている。


「いい子だ、お蘭。それでこそ私の妻だ」

「ふぁ……は……はぃ……」


 榧様は私に女の格好をさせて女のように果てさせる。けれど女が好きなわけでも、私を女にしたいわけでもないという。

 男の私が、榧様に抱かれて快楽に耽るときだけ雌に成り果てる様を悦ばれるのだ。そして私も、榧様に妻として抱かれ、雌として喰らわれることを悦んでいる。


「私のお蘭があまりにも愛らしいから、私もそろそろ苦しくなってきた。……お前をもらってもいいかい?」

「はい……私も榧様がほしいです……私の中を榧様の逞しい雄で貫いて、榧様の色に染めてくださいませ……」


 腕を伸ばして榧様の首に回しながら囁くと、ごくりと唾を飲む音がした。そして、未だヒクつく私の菊座に熱い先端を押し当て、一気に刺し貫いた。


「あぁああっ!」


 弓なりに体を反らせ、私は中に榧様を受け入れた瞬間に果ててしまった。

 目の前が真っ白に染まる。くらくらする頭でやっと理解したのは、また私の中心は欲を吐き出されてもらえなかったということだけ。


「あッあッ、あんっ、榧、さまぁ、ああっ」


 榧様は痙攣する私をきつく抱きしめ、何度も腰を打ち付ける。私の舌は人の言葉の大半を忘れてしまったかのように、嬌声と愛しい人の名だけを零し続けた。


「んぅっ……ふぁ、んっ、んっ……は……あぁ、あっ」


 媚肉を抉りながら、榧様は深く口づけをした。舌が絡み、熱い吐息が混じり合う。私の全身が榧様に捕らわれて、余すところなく喰らわれていく。私の全霊が、美しい獣の贄となれる悦びに満ちていく。


「ひぅっ、んんっ……んふ、ぁ……はぁ、ふぁ……あッあんっ」


 口づけの合間に、榧様は指で胸の蕾を玩び始めた。こりこりと刺激する度に榧様を締め付け、硬く立派な雄の形を体が覚えていく。

 なによりも逞しく獰猛なこの雄が、私の主人なのだと、深く教え込まれていく。


「っ、は……お蘭は、私の此が好きだね……とても気持ちよさそうだ」

「あっ、んっ、ふぁ、は……ぃ……すき、です……っ」


 榧様のものは私のとは比べものにならないほど硬く大きく逞しい。力強く勃起したときなどは張り出した雁首が獰猛さを増し、奥深くに突き入れれば私の好いところを的確に抉る。最初は薬があっても苦しかったのに、いまでは快楽だけが私を支配していた。


「蘭……私を、いつものように受け止めておくれ……」


 もう言葉を紡ぐことも出来なくなった私は、幼子のようにただ何度も頷いて榧様の逞しい体にしがみついた。投げ出された足先が宙を蹴り、薄い胸が快楽に染まって、大きく仰け反る。


「ふぁあ、あッ、あんっ、あ、あ、あッ、んぁあっ!」

「っ、く……ぅっ……!」


 私の中で膨張した榧様の雄が白濁の欲熱を吐き出したのと同時に、私は意識を白い朝日にとかしてしまった。


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