【苺】あなたは私を喜ばせる

 肌がぶつかり合う音と、どちらのものかもわからぬ荒い吐息の音だけが響く中で、私は榧様の雄に穿たれ、激しく揺さぶられるまま体を投げ出していた。

 逞しい腕にすっかり抱き竦められているせいで、体が跳ねる度に私のものが榧様の肌に触れて擦れ、それが刺激となって中を締め付け、そうすると榧様も更に私の中を激しく抉る。


「あんっ、あっ、ふ、ぁあ! かやさまぁっ」


 私の好いところを指よりも遙かに太く熱いものが穿つ。そうしているうち、体内を暴れる榧様がいっそう強く脈動した気がして、私はぎゅっとそれを締め付けた。


「ぐっ……! 蘭、離し……っ」


 首を振り、腰を浮かせて押しつける。離れたくない。離したくない。体の中も外も全てを榧様のものにしてほしい。


「ああ……本当に、君は……!」


 腰を掴むと速度を速め、膨張する雄を引き抜くことなく打ち付け続けた。そして、奥を何度か穿って、短く息を飲む気配がしたとき。


「ふぁあっ! あっ、ああっ! んぁ、ああ―――っ!」


 私の中は、榧様の熱で白く染められた。

 ビクビクと中で榧様が力強く脈動している。その度に私が塗り替えられていって、全てが榧様のものになっていく。榧様と同時に私も果てていたようで、胸や腹が私のもので白く濡れていた。


「……ぁ……」


 ずるりと中から榧様が引き抜かれたのを感じ、思わず寂しげな声が漏れた。榧様も私の声が掠れていたのに気付き、優しく頭を撫でた。榧様の大きな手のひらが、私の長い髪を何度も撫でる。その度に早鐘の如き心臓が、緩やかに落ち着きを取り戻していく。と同時に、強い眠気を覚えた。


「夜明け前にここを発つからね。少し眠らないと」

「はい……」


 幼子に言い聞かせるような口調に少し恥ずかしくなりながら、体を起こそうとしたけれど、私の体はすっかり萎れたようになっていて僅かもいうことを聞かなかった。


「無理をさせたかな。私が綺麗にしておくから、眠っていいよ」

「榧様……でも……」


 抵抗しようにも瞼が重くとろけていく。更に寝かしつけようと髪を梳かれ、掠れた低い声で名を呼ばれては、抗うことも出来なかった。


「お休み、お蘭。……私の可愛い花嫁」


 榧様の声を遠くで聞きながら、私は夜闇に意識をとかした。


「…………ぅ……ん……?」


 次に目覚めたとき、私は榧様の腕の中にいた。昨晩の出来事が夢ではなかった証に体の奥がまだ甘く痺れている。私は、この綺麗な人に抱かれたのだと改めて自覚し、顔が熱くなった。


「お早う。身支度を済ませたら行こうか」

「はい」


 褥から起き上がり、気怠い体を叱咤しつつ着物を整える。風呂敷の中は昨日のままなにも変わっておらず、私たちが眠っているあいだに誰かが入り込んで漁ったということは、見たところなさそうだった。

 それから、あれだけ濡れていた私の体も綺麗に清められていた。あのあと結局私はなにもせずに眠りに落ちて、榧様に全てを任せてしまったようだ。


「榧様……ありがとうございます」

「うん? なにかあったかな」

「その……昨日、私はなにも出来なくて……」


 耳まで赤くなっているのをじわりと滲む熱で感じながら伝えると、背後から榧様の腕の中に閉じ込められた。


「愛らしい君を隅々まで堪能させてもらったのだから、あれくらいはお安いご用さ」

「っ……」


 吐息を吹き込むかのように耳元で囁かれ、肩が小さく跳ねる。まるで生娘のような反応に、榧様が喉を鳴らして笑った。

 井戸水を飲んでから竹で作った水筒に水を汲み、荷物を全て纏めた。

 昨日はあれほど濡れていた下穿きは榧様が干してくださっていたらしく、恥じらいながらもそれを身につけて母の着物を着た。


「さあ、行こう。疲れたら休むからいうんだよ」

「はい」


 小さな荷物を抱え、お互いの手を取り、私たちは山小屋をあとにした。

 旧街道を出てからはひたすら歩くだけで、時折木陰で休むほかは何事もなかった。次の街が見えてきた頃には既に日が昇っていて、大路沿いでは朝市が開かれていた。


「まずは宿を取ろう。おいで、蘭」

「はい、榧様」


 街にはたくさんの人が行き交っている。余所からの商人や旅人もいる中、私たちにわざわざ注目する者はいない。

 故郷の街では外に出るだけで目を引いていた榧様でさえ「あの御店の若旦那だ」と囁かれることなく歩けている。

 ただ、榧様の見目が目立って良いことに変わりはないので、遠巻きに眺める女性の視線が肌に突き刺さる感覚だけはここでも感じられた。


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