【楓】美しい変化

 白く迸ったもので濡れた指が、ついと私の脚のあいだを辿る。そしてずぶりと長い指が菊座へと潜り込み、息も整わぬうちから容赦なく昂ぶらせていった。

 榧様の長く形の良い指が私の体を暴いていると思うと、それだけで体が熱くなる。


「んっ、ふぁ……あっ、ああっ」

「……ここ、かな?」

「あぁっ!」


 ぐいと押し上げられた箇所から感じたことのない甘い痺れが全身を巡った。指先が抉る箇所から脳天まで突き抜ける快感が私の体をとろけさせていく。

 榧様は私の中に指を埋めたまま、傍に置いた荷物から器用に片手で小さななにかを取り出した。貝殻を器にした紅にも見えるそれは、どうやら軟膏のようだった。


「榧様……?」

「興味本位で取り寄せたものなのだけれどね、せっかくだから使ってみようか。君の体を傷つけずに済むものでもあるのだし」


 一度中から指が抜け、薬指で軟膏を少しだけ掬い取ると、それを私の菊座に塗って馴染ませた。そのまま奥まで指を差し入れ、先ほど私が大きく反応した箇所に至るとそこにも刷り込むように中をかき回した。

 確か中の滑りを良くするためのようなことを仰っていたけれど、熱に浮いた頭では榧様の言葉を正しく理解することが出来ない。

 そうこうしているうちに私の体は榧様の指を深く咥え込んで離さなくなっていた。


「あっんぁ、はぁ……あっ、榧さま……な、何だか、ぁ、あつい、です……」

「おや、薬が効いてきたかな」


 確かめるように、ぐちゅりと好いところを押し上げた。

 その瞬間、私は声もなく腰を震わせて果ててしまった。しかも今度は果てたあとの余韻が長く、一向に落ち着く気がしない。体がビクビクと跳ね、榧様の指をきゅっと締め付けては奥へと招こうとしている。


「半信半疑だったけれど、本当に男も娘のように果てるとは……お蘭、君はどこまで私を狂わせてくれるのかな」


 榧様の言葉が理解出来なくて、私は弛緩した体をそのままに涙で濡れる目で榧様を見つめた。声を出そうにも喉が枯れて、呼吸をするので精一杯だった。


「わけがわからないと言いたげだね」


 左手でぐちゅぐちゅと中をかき混ぜながら私に覆い被さり、右肘を顔の傍について私の頭を優しく撫でている。宥めているのか煽っているのかわからない手の動きに、散々に翻弄されながらも、私は何とか頷いた。


「先ほどの軟膏はね、男が男に抱かれるときに使うものらしいんだ。ここをこうしてやると、女と同じように射精せずに果てることが出来るそうだよ」

「ひっ、ああ!」


 こうして、と言ったときに先と同じく好いところを容赦なく押し潰され、私の体が自分のものではなくなったかのように跳ねた。果てているようではあるのに体の奥に熱が蟠ったままのように感じていたのは気のせいではなかったのだ。

 榧様の手で私の体は女のようにされている。榧様を受け入れるための体にされて、そうしてから抱くおつもりでいるのだ。


「あ、ぁんっ、かや、さま……おねがい、ですっ……もう……」

「蘭……私がほしいかい?」


 何度も頷き、縋るように腕を伸ばして、首にしがみついた。ふっと笑うと、榧様は私の中から指を引き抜き、下帯を解いて榧様のものを露わにした。

 抱き合っているから私の目にそれは見えない。けれどぐずぐずに濡れたそこへ熱く滾る先端があてがわれたとき、その熱と硬さ、そして私のものとは比べ物にならない立派な質量を感じた。


「苦しかったら言うんだよ。私は、可愛いお蘭を傷つけたくは……」


 榧様の言葉を遮るようにして首に絡めていた腕に力を込めて引き寄せると、そっと口づけをした。何度も果てて力を失った体はそれだけで疲れてしまい、腕がするりと羽織に落ちた。榧様も苦しいはず。こんなにも硬くしていながら、私ばかり好くしてもらってきたのだから。


「榧、さま……どうか私を、榧様のものに、してください……」

「っ……君は……」


 やっとの思いで願いを口にすると榧様は噛みつくような口づけをした。それに気を取られていると、体の中心を貫く熱の塊を感じ、私の体が榧様の腕の中でしなった。

 ずぶずぶと埋め込まれていく慾熱が、私の脳髄をとかしていく。もうこれ以上はと思うその奥までも貫いて、腰が触れ合ったときには私の体内をすっかり榧様が埋めていた。


「……ぁ、は……はぁ……」


 息の仕方はどうだったであろうか。声の出し方は。言葉の紡ぎ方は。

 榧様に体内を貫かれたいま、私はどうなってしまったのか。ただわかるのは、私の体は榧様とひとつになれた悦びに打ち震え、離すまいとうねり、締め付け、奥深くで咥え込んでいるということ。

 榧様のお顔が微かに差し込む月明りに浮かぶ。ふつふつと滾る情慾に塗れ、凶暴な獣の本性を宿した瞳で私を見下ろしている。

 嗚呼、なんて美しい方だろう。いまから私は、この麗獣に喰らわれるのだ。


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