【薺】私の全てを捧げます

 榧様の仰っていた山小屋は、街道を一刻ほど進んでから少し脇道に逸れたところにひっそりと建っていた。山の端で狩猟をする人が使う小屋なのか、それらしい道具が置いてあるものの、暫く使われた形跡がないようだった。

 中に入ってみると、想像していたほど埃っぽくはなく、いつ使うときがきてもいいよう掃除がされているようだった。つまり、長居をすればここを管理している人間が来るかも知れないということだけれど、一晩借りる程度なら大丈夫だろう。

 外の井戸から水を汲んで桶に溜め、土間に置いて、手拭いで足を拭く。余った水はまだ捨てずにおいて、私たちは畳に上がった。


「おいで」


 榧様は褥に羽織を敷き、そこに私を導いた。上等な羽織を敷いて寝てしまうことに躊躇う私を、お構いなしに押し倒す。


「榧様、羽織が……」

「構わないよ。君が汚れてしまうほうが大変だ」


 優しく言いながら、榧様の手は私の着物の裾をたくし上げていく。中心の熱に手が触れた瞬間、下穿きの奥からぐずぐずと濡れた感触が伝わってきた。その音と感触を楽しんでいるかのような手つきに、かっと頬が熱くなる。


「あっ、ん……榧様、恥ずかしいです……」


 下穿きの中で私の芯が熱を持ち硬くなっているのがわかる。きっと榧様にもそれは伝わっているはず。そろりと榧様のお顔を盗み見ると、捕食者の色を湛えた瞳が私を鋭く捕らえた。


「蘭、どうしてほしい? お蘭の好いところを、ほしいものを、私に教えてご覧」

「……ぁ、わ、私は……榧様と、ひとつになりとうございます……」


 焦らすようなもどかしい手つきに、体の熱が蟠っていく。私は榧様に手を伸ばすと端正なお顔に触れて懇願した。


「子を成せぬ身ではありますが、私は榧様に私の全てを捧げたいのです……この身も心も、なにもかもを……」

「蘭……お蘭、あまり可愛いことを言わないでおくれ。抑えが利かなくなる」


 そう囁く榧様のお顔はとてもやわらかいのに、瞳の奥に宿した光までは隠すことが出来ておらず、まるでちぐはぐな表情をしながら私の唇に食らいついた。貪るとしか言い様のない口づけに、息が苦しくなる。


「んっ、んぅ……ふ、ぁ……はぁ……ん」


 性急な手つきで帯をほどかれ、肌が露わになる。仰け反る私の胸を弄ると、小さくぽつりと主張する、淡紅の蕾に狙いを定めた。やんわりと胸全体をもみほぐしたかと思えば、蕾を指先で転がして、丁寧に整えられた爪で優しく引っ掻いた。

 もう一方には濡れた舌が這い回り、時折赤子のように吸い付いては、快楽に跳ねる体をお構いなしに責め立てていく。


「あんっ、ふぁ、あ……んあっ!」


 経験したことのない刺激に、体が勝手に跳ねる。そして私が大仰なほどに反応する度、榧様の指も楽しげに私の肌を滑り、体の上で踊るのだ。

 喉元に舌が触れ、舐め上げる感触にぞくぞくと背筋が粟立つ。


「ひっ……あぁ……榧様、それは……っ、ふぁ……」


 わざとらしく濡れた音を立てながら耳殻を舐められ、私は体を震わせて榧様に縋り付いた。声が直接脳髄へと擦り込まれるようでくらくらする。


「可愛いお蘭……もっと、もっと、私を感じておくれ。君の情慾が咲き乱れる様を、私だけには隠さず見せておくれ」

「あ、あぁ……榧さまぁ……」


 体ごととろけてしまいそうなほど甘い声と慾熱を纏う言葉に、私はされるがままでいることしか出来ない。


「いい子だね、お蘭。ちゃんと私を感じてくれていたようだ」


 いつの間にか取り払われていた下穿きが明後日へ放り出され、直接榧様の手に私が包まれた。一度果てたはずのそれはすっかり芯を取り戻して、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を奏でている。涙で滲む視界に、榧様の欲に濡れたお顔が映る。


「榧さま、ぁ、んっ……また、また果ててしまいますっ……」

「構わないよ。何度でも好くしてやるから、私に愛らしい顔をお見せ」

「は……ぃっ……」


 こくこくと頷くと榧様の手が強く早く私を急き立て始めた。最早抗う術などなく、私は絶頂へと追い詰められていき、背に敷いている榧様の羽織をキツく握り締めた。腰が高く浮き、何度も突き上げるように痙攣する。


「あ、あっ、あっ、榧さま……榧さまぁっ」


 最後には泣き声のような嬌声を上げ、私は榧様の手の中で再び果てた。浮いていた腰が褥に落ち、虚脱した体は、指一本自由にならない。暫くぼんやりと余韻に浸っている私を、榧様が慾熱に滾る眼差しで覗き込んだ。


「ああ、君は本当に愛らしいね……誰より優しくしてやりたいのに、熱に浮かされて可笑しくなりそうだ」

「構いません……私は、榧様のものですから……どうか、どうかお心のままに……」


 譫言のように呟く榧様の大きな背に震える腕を回し、私は荒い呼吸をそのままに、掠れた声で囁いた。瞬間、榧様の瞳の奥でなにかがぷつりと切れてほつれるような、そんな気配がした。


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