田辺聡子
『とある親子』
これは、4~5年ほど前の出来事です。
私がまだ業務スーパーで店員として働き始めてすぐの頃でした。
私はその日も、いつものように働いていました。
エスカレーターの近くで商品の整理をしていると、小さな子供が泣き出す声が聞こえてきました。
父親らしき人が子供をなだめている様子が見えましたが、子供は泣き止むことなく「アレがのってるぅ、こわいよぉ!」と叫んでいました。
私は心配になり、「大丈夫ですか?」と尋ねると、父親は「すみません、大丈夫です。ただ、息子がエスカレーターに乗るのが怖がっていて……」と答えました。
私はエスカレーターを確認しましたが、特に異常はありませんでした。
その後、父子は階段を使って上の階へと向かいました。
私はその場に残り、少し考え込んでしまいました。
エスカレーターに乗るのが怖いという子供はたまに見かけますが、あの子は何かを見たような反応でした。
私は何年もこの店で働いていますが、あんなに怖がる子供を見たのは初めてでした。
数日後、その父親が再び店に来ました。
私は思わず尋ねてしまいました。「あの日、息子さんが怖がっていたのは何だったんですか?」
すると父親は少し困った顔をして、「実は……息子が描いた絵を見せてくれたんです。エスカレーターに何か変なお化けが乗っているとか言って……」と話し始めました。
私はその話を聞いて、背筋が凍るような感覚に襲われました。
先輩店員の人たちから、店内には昔からさまざまな噂がある、と聞いたことがあったからです。
閉店後に物音がするとか、夜中のパトロール中に叫び声がするとか、エスカレーターに巻き込まれた子供の霊が出るとか……。
私はそんな話を信じていませんでしたが、あの父親の話を聞いてからは、エスカレーターを見るたびに不安を感じるようになりました。
私は今でもあの日のことを忘れることができません。
真相は分からないままですが、あの子供が見たものが何だったのか、いつか知る日が来るのかもしれません。
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