寺本和馬
『エスカレーターに乗っていたもの』
これは息子がまだ2歳くらいだった頃。
息子は当時、エスカレーターに乗るのに苦手意識を持っていたのですが……今では父親である私の方がエスカレーターに乗れなくなってしまいました。
何があったのか、ちょっと語らせてください。
ある時、家の近くの業務スーパーへ行って、エスカレーターに乗ろうとしたら、突如息子が泣き出しました。
私は一旦エスカレーターから少し離れて、「ど、どうした? お腹、痛くなったのか?」と、息子を落ち着かせようと彼の背中をさすりながら尋ねてみると、息子はふるふると首を振りました。
「アレやだよぉ、パパぁ」と息子は泣きながら答えました。
……あっ、そういえば、歩いてエスカレーターに乗るのははじめてか。
「大丈夫だ、アレはエスカレーターって言うんだ。怖くないぞ〜。パパと一緒に乗れば大丈夫だからな〜」そうやってあやしても、息子は「アレこわいぃ! アレがのってるぅ、こわいよぉ!」と言って泣き止まない。
……乗ってる? エスカレーターに乗ってる人が怖いのか?
でも、息子は人見知りなんてしたことのない子だったからどうして怖がってるのかわからない。
そんな息子を心配してか、女性店員さんが駆けつけてくれて、一応と言ってエスカレーターの様子を見てくれた。特に異常はなかったみたいですが……迷惑かけてしまったなぁ、ごめんなさい。
結局その日は階段を使い、買い物を済ませて家に帰った。
そして、家に帰ってから「なぁ、今日は何が怖かったんだ?」と息子に聞いてみました。
すると、息子は「あのね、あのね、おばけ!」と答えました。
「……おばけ?」と私が首を捻ると、「うん。こんなのがね、いたんだよ」と言って息子は紙と鉛筆を持ってきて絵を描き始めました。
描かれた絵には、エスカレーターの上に這いつくばっている、潰れた形の顔がたくさんついた、幼児のような何かが。
体は黒い。
多くの頭からは目が飛び出ている。
歯茎を剥き出す口。
どの頭も髪の毛が長い。
……こんなのが、乗ってたのか?
あのエスカレーターに?
それ以来、エスカレーターに乗るたびにその絵が思い出されてしまい、エスカレーターが苦手になってしまいました。
あれは何だったんでしょうか。
小学生になった息子に当時のことを聞いてみても、もう覚えていないようで……真相は分からずじまいです。
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