第17話  砂漠に入りましたわ 

 三人がナムラ砂漠に入ったのは、日が沈んで夜になっていた。

 夜の砂漠は、昼間の暑さが嘘のように冷えて冷たく、カタリナは、ポポロンに寒さをしのぐように命じた。


 風の魔法使いに誘拐されて、空中では何も出来ずに、助けを呼ぶことしか出来なかったカタリナが、クレッグに助けてもらって以来、とても懐いている。

 今では、レジ-ナを差し置いてカタリナがちゃっかりクレッグと馬を相乗りしていた。


「うわ~!!地平線まで星が見えますわ」


「ちいひめ、口を開けて上を見ていると馬から落ちますよ」


「そうしたら、クレッグがまた、助けてくれますわ」


 カタリナは、どんな男も魅了する笑顔でクレッグを振り返った。


 そこに後ろから「コホン」と咳払いが。


「あのねぇ、カタリナ。クレッグは、私の旦那様になる人なの。忘れてない?」


「あら、ですわ。お姉様、と、いうことはあたくしはクレッグの義妹ということになりますわ」


「どうして、あなたは自分の都合の良いように脳内変換するのよ」


「まあまあ、大姫も落ち着いて。今日は、このまま進んで砂漠奥地にあるというジェダイン・オアシスを目指します。あそこは元のドーリアの王族が逃れた土地です。水の力を持った姫なら、受け入れてくれるかもしれません」


「そうね」


 そういう意図があったのかとレジ-ナは頷いた。

 すでに他の騎士は、ビルラード王国へ帰していた。

 ヴィスティン王国で、カタリナが謎の風の魔法使いに誘拐されそうになったことなどが一応、クレッグの最後の任務として、報告書ととも退官願いが添えられていた。


 こちらに、無敵のカタリナかいるためか追手は来なかった。


「水さえあれば、ジェダイン・オアシスにだってあっという間に行けるのに」


「お姉様の水の魔法ですわね」


 大地の圧倒的な魔法を持っているカタリナに対して、レジ-ナは、水を使う限られた魔法しか使うことができない。


「ちい姫、こんなに何も無いところなら歌っても大丈夫だと思いますよ」


「ちょっと、クレッグ。何を言ってるの! 何が起こるのか分からないのよ」


「良いじゃないですか! ヴィスティン王国以降、全然歌ってないのだし。ここは何も無い砂漠です。木でも生えたら砂漠の民は喜ぶでしょう?」


「だと思いますわ。あたくしも」


「『大地の恵み』『豊穣』などでどうです?」


「まあ、リクエストまでしてくださってうれしいですわ」 


 カタリナは、そう言うと馬の上で思いきり歌い始めた。

 それは、どんな聖歌隊の独唱者よりも素晴らしい歌唱だった。

 カタリナの大地の力は、声にも宿っている。そして奇跡は起きた……

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