第10話  男装させらても行きますわ!!

 ヴィスティン王国の中央の街道をひたすら西に見向かっていた一行だが、やはり、見ていた者はいた。

 金髪の少女が讃美歌の『春雷』を歌って、雷を呼んでいたと昼までにはサレストの街中に噂が回っていた。


 風の声を聞くことの出来るクレッグは、いち早くこれを聞きつけ、街道を北上して、ロサ王国の森林地帯沿いに旅をすることになってしまった。


 その際にカタリナは、髪を切られたうえに男装させられる羽目になった。


「嫌ですわ~~ お姉様ぁ~~!!」


「こんな格好をしても、あなたは育ちの良いお嬢様の悪ふざけにしか見えないわ。恨むんなら、お父様にそっくりな自分を恨みなさい」


『母』と出て来ないのが、如何にもおかしなところである。


「お姉様だって、お兄様だって、似ていらっしゃいますわよ」


「そうかしら? お兄様はお父様よりも老けて見えるじゃない」


「そんなことありませんわ!!」


「はいはい」


「お姉様~ この服少し大きいですわ」


「ポポロンちゃんに何とかしてもらいなさい」


 レジーナもポポロンの存在は知っている。カタリナの困った時は必ず手を貸してる精霊なのだ。

 しかも、カタリナの誕生と共にカタリナの心臓に宿った大地の精霊。

 珍しいタイプであるらしい。


 カタリナは、直ぐにポポロンと協議して、上着とズボンにフリルを足してもらっていた。


「余計に目立つでしょ!! 却下」


「お姉様、旅に出てから怒りんぼになりましたわ」


「王宮では、人の目がたくさんあって、言いたいことも言えなかったのよ。今は良いわ。好きなことが言えるもの」


 そこにクレッグが来た。


「大姫、あと数日で森を抜けて、ディナーレ(ヴィスティン王国王都)に入るから、気を引き締めてくれ。本当なら、ちい姫にはここで帰って欲しいのですが……」


「今からでも、フリードに託しましょうか?」


 レジーナは、クレッグとカタリナの両方を見て言った。

 溜まらないのは、カタリナだ。男装までさせられて、髪まで切られたというのに……。


「あたくしは、お姉様と一緒に行きますわ!!」


 鼻息は荒い。帰る気は全くなさそうだ。仮にここに置いて行ったとしても、同じ地続きな上にいる以上、カタリナは何処へでも追いかけて来れるだけの力を持っている。しかも、学び舎に入っているとか、魔法を正式に学んだことが無いのでカタリナの魔法に関しては未知数なのだ。


 今まで、王宮で大きな出来事が無かったのは、先王の強力な結界が王宮に張り巡らされていたからだ。結界の存在を知る者は誰もいない。


 だが、王宮を出て来て、カタリナの魔法の力はどんどん増していた。


 そして事件は起きた……。 

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