第24話 誰からも赦免を求めぬということ、後悔のまま過ごすということ
いつの間にか板菜と中瀬は公園に居た。
どうやら、テレポート先は板菜と中瀬がよく話していた公園だったようで、見慣れた景色に、見慣れぬ黄昏の色が広がっている。
「よーし……。何事も無く帰れた。」
「そうか? 結構何事かあっただろ。」
「ええ? でも、あれぐらい日常茶飯事では?」
「はぁ……。なんか、非日常のハードル高くね? なぁ、わう。……わう?」
板菜が声を掛ける。
返事は無いし、姿も無い。
「わう?」
「小守さん?」
二人であれから時間をかけて探したが、何処にも姿は無く、ただ時間が過ぎていくだけだった。
夜の帳が下りた後、二人はいつものように公園の長椅子に座っていた。
結局、あれから小守の姿を見かける事は無かった。
「終わっちまったのかもな。」
「え?」
「【IF説ともサイドストーリーとも呼べぬ奇怪奇天烈奇妙な奇跡の日】。」
静かに告げられたのは、特異性の名前だ。
それは、亡き人、消えた思い、無くなったモノ全てがこの世に黄泉帰り、目の前に現れる日。それによって生じるもしかしたらの世界線が具現化し、一部の聡い者や気づける者を除き、それに興じる日。
時折、黄泉帰りしてはならぬものすらも蘇ってしまうが……それ以外では大した危険性は存在しない為、消滅する事も封印措置を取られる事も無く放っておかれている。これ以上に危険な特異性なんて沢山あるし、なによりこれは現象型特異性。封じるのも消すのも面倒なのである。
「はぁ……結構早く終わりましたね。」
「まっさか、アイツとの恋人時代が蘇るとはな。ぜってぇありえねーって思っていたんだが……未練がましいな。」
「確か……誰かが再び巡り合う事を望んだものだけが具現化するんでしたよね。」
「ああ……。あいつの迷惑になるから、捨てたと思ったんだがなぁ。上手くいかねぇや。」
そういって長椅子の背凭れに思いっきり凭れ掛かる。
ふぅ……とため息を吐き、空を見上げる。
暗闇は星々によってほんの僅かばかりか薄っすらと照らされ、月は地球全体を見つめている。
「奇跡を希う程望むのであれば、玉砕覚悟で告られては?失敗しても1デスで済みますよ。私は嫌ですけど。」
「時折無責任な事言うよなぁ。こう見えても結構偉い立場の人なんだよ。あいつだってさ、もう偉い立場の奴で。それで、だから、俺は、もう。」
「アイツが元気でいるなら、それでいいんだ。」
静かに告げられた思いは、心から追い出そうとして失敗し続け、底へ沈めようとしても高ぶる恋情を落ち着かせた。
そう、元気で居れば良い。
今日も、明日も、馬鹿みたいに。
その心の底には確かな憤怒の炎だけを燃やし続けて。
けれど、その憤怒の炎を冷静に対処し、元気に暴れて居れば良い。
周囲には信頼のおける仲間がいて。少し嫌な気持ちになるが、生涯を共にする人を見つけて、一緒に過ごして、老衰して、皆に看取られ愛されながら死ぬ。
理想的な人生、幸福を体現したような人生を過ごしてくれればいい。
「すまんな。」
「はい?」
「始めっから可笑しいって気づいていたんだろ。」
「ええ。お店の方でのお客さんの様子も可笑しかったんですけれど、小守さんが来た辺りから、これどっきりでも何でもなく特異性で皆可笑しくなっているだけだぁと思いましたよ。」
「……とんだ茶番につき合わせちまったな。」
「構いませんよーっと。小守さん、恋人時代だとあんな感じだったんですね。今と大違いです。いや、噂しか知らないんですけど。」
「口調は変わってないが、所業は大分悪辣になったからな。悪党限定で。」
今の小守わうであれば、恐らく、嬉々としてあの犯罪集団に突っ込みに行っていた。そして仲間と共に被害を拡げ、鎮圧するのだ。
暫くの沈黙し、おかしな日に思いを馳せる。
小守も板菜も遠く遠く来すぎてしまって、もうどうする事も出来なくて。
それでもという板菜の欲から生まれた奇跡。
別に、何かが変わる訳ではない。
この奇跡を切欠に前に進む者もいるかもしれないが、この程度の奇跡では板菜が変わる事は無い。
「とんだ臆病者だ。」
呟かれたのは、確かな自嘲だった。
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