第23話 後悔の残響(5)

緊急避難通路を三人は通る。

薄暗い廊下をほのかに照らすのは、ランタンだ。

全て電力で賄う為だろうか、電光タイプで、赤い光が通路を照らしている。


「なんか……通路は古臭いのに、照明機器は最新式と言いますか、変なチグハグですね?」

「まぁ緊急避難通路自体、市場区が市場区と呼ばれるようになる寸前に完成して作られたから。職人議会の手によってね。」

「あぁ……あの超特急建築機関。」

「違うぞ?違うからな?職人議会は日和国が誇るありとあらゆる"職人技"を持つ凄腕の集いだからな?建築機関になっているのは警察機関が全体的に国の建築物を壊し過ぎる物騒だからだからな?」


 だからこそ、小守は避難所が壊される事を見越してこの通路を選んだのだ。


 広範囲の強盗には、広範囲の破壊活動を以てそもそも強盗先と占拠先、ついでに人質も無くす。

 遍く全ての人質効果……ヒト、モノ、カネ……が効かないを効かないようになかったことにする暴れ馬機関。それこそ警察機関、エンブレイス警察が頭を抱える誇るエキスパート部隊、エンブレイス警察特殊業務局HSAT課及び裁判権外検非違使課である。

 そしてその尻ぬぐいを嬉々として行う変態的技巧と精神性を持つのが職人議会だ。日和国を代表する日和議会も裏議会も頭が上がらないと専らの噂である。何せ、かの議会が無ければ日和国は物理的に更地になる。更地になってしまえば、何もできない。一夜にして日和国を修復できる職人議会は、技術による最高権力を構築し、今なお君臨する一部の越権が認められた"法規超越機関"の一つである。


「なぁ。わう。」

「どうしたの?」

「この緊急避難通路って市場区全体に張り巡らされてるのか?」

「そうだけど……。」

「これを……となるとあの建築物はやっぱり……。だが、何故……?」

「…夜?」


 板菜が小守に避難通路について聞いた後、何かを考えこむかのように小さく何かを呟いている。だが、それもすぐに終わった。


「………。すまん。関係無い事考えちまった。行こう……って、何処に行くつもりだ?わう。」

「市場区からまず出るよ。確か、テレポーテーションシステムがあって、それを使えば黄昏区に戻れるし。それを使うよ。」

「値段とか、かからないんですか?」

「かからない。そもそもそのシステムを使うのは、緊急事態が起きて至急市場区から脱出する為だから。お金が足りなくて使えませんでしたぁじゃあ本末転倒だからね。だからこそ、使用する為の制限も厳しいものではあるが……。アラート鳴ったからね、使用条件は満たしている。十分使えるよ。」

「条件か……。アラートが基準なのか?」

「いや?幾つか色々と条件があって、その条件の内一つでも満たせば使用できるようになるんだ。アラートはその一つ。因みに、使えるかどうかは此処の明かりが点灯しているかどうかで分かるよ。この明かりは暗い通路を照らすだけでなく、テレポーテーションシステムを使用する為のエネルギーが通っているかどうかを確認するためのものだから。」


 そう説明している間に、小守は一つの壁の前で止まる。

 その壁のランタンは青い色のランタンだ。


「ここだけ青なんですね。他は赤なのに。」

「これは目印だからね。青だからまだ使われてない。」


 小守は青いランタンの壁を幾つか押していく。そして十五回目、壁を押した時、壁はゴゴゴと音を立てて横へスライドしていった。


「中へ。一分も開かないよ。」


 三人が入ると、数秒後には壁は元通りになる。

 壁の向こう側は簡素な一室だ。床は魔法陣のような何かの模様になっている。


『アラートの発生を確認。緊急事態と認定。黄昏区行きテレポーテーションシステムを作動させます。皆様、余計な事は一切せず、大人しくしていてください。』


「……成程な。」

「ほへぇ……。マジでテレポーテーションシステムってあったんですねぇ。便利そうなのに、普及してないんですね。」

「まぁ、普及させたら悪用可能なのと、普通にコスパが馬鹿食うからね。普段使いには向かないんだ。何せ、素粒子レベルに分解して別次元を経由し移転させ、寸分の狂いなく復元……みたいなシステムらしいし。本当は絶対違うだろうけど。」

「ええっと……?」

「表向きは小さくして別世界経由にすることで安全に通らせる。別世界の座標と、この世界の座標を参照して、元の大きさに戻す。その間の作業時間は一秒にも満たない。っていう説明だけど、実際は全然違うよ。ってこと。」

「成程。」


 全く理解していないが中瀬がそう返すと、何処からか聞こえてくる声が続ける。


『テレポーテーションを開始します。開始まで、残り、三、二、一。』


 そして光り輝くと、その一室から三人の姿は消えた。

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