第21話 後悔の残響(3)
「お肉!食べずにはいられない!」
「夜のおごりだからじゃんじゃん食べな~。あ、夜、これ買って。」
「おめぇら……さっきから肉ばっかりなんだが、バランスって言葉知ってるか?野菜も食えよ。」
「そーゆー夜も肉串じゃん、今持ってるの。」
「俺はコレの前にお前が一口食って押し付けたデラックスツカツカサラダっていう、ツカツカなる謎野菜と色んな野菜がぶち込まれたサラダを食いきった所なんだが?2キロだぞ、2キロのサラダ。」
「乙。」
「乙。じゃ、ねぇよ!」
「もご、もごもごもごも!」
「おや。くれるのかい?」
「もご!もごもごもご!」
「ありがと~。ほら、これも食べな、美味しいよ~。」
「行儀わりぃぞ、中瀬。……ちゃんと食べな。」
屋台に出ている料理を次から次へと食い歩きながら平らげる。
デラックスツカツカサラダは置いといて、大抵の料理は食べ歩きしやすいように工夫されている。
ニャキャオ肉(何の肉か分からない)とプラスキャオ肉(何の肉か分からない)の肉串、つくね、黄な粉とあんみつのクレープ、グミ型プリン、蜜入り茹で肉野菜炒め小瓶、スティックフルーツ&ペッパー、鈍器パン、アイスinカップ、持てるオムライス、焼き魚、うどん棒、そば棒、でぃすとぴあパック、ふるふるスープ、タコ焼き、ねりねり魚の団子六個入カップ……。
どんどん
「……何も入んねぇ。」
2キロのサラダと肉団子の串を食べたが、板菜の食べるペースを遥かに上回るペースで、二人が次々とその華奢な肉体の何処に入っているのか分からない量を食べている姿を見ているだけでお腹がいっぱいだ。
「……はぁ。高給取りで良かったな、俺が。」
二人の財布にされているが、これでも旋律大罪衆という日和国では歴史があり、そしてその歴史の積み重ねが嘘でない事を証明する実力を持つ組織。その僅か数席の幹部の座に座る存在。それが、板菜夜。
そう、こう良いように財布にされているが、こう見えても幹部。末端の人間でもかなりのお金が入っているが、板菜は幹部なのでかなりのお金を貰っている。
それこそ、中瀬が一生をかけて喫茶店で働いても稼げないお金を稼いでいる。
(あんときは……わうは勘づいていたな。)
小守の頭脳は凄いものだった。それこそ、この日和の中で最も聡明な賢者に数えられる存在であった。
中瀬にバレているが、そのバレた原因は何故か店長である蛇頼が知っていたからだ。だからこそ、中瀬は余計に深入りする事は無く、板菜自身、中瀬が自らの正体を知っている事を知らない。蛇頼から言われなければ中瀬は今でも板菜が裏社会の人間であることも、旋律大罪衆の幹部である事すらも知らなかった。……知っていてもこうして財布にしているので、多分勘づいてもそんなに支障はないだろうが。
兎も角、板菜が裏社会の人間である事に勘づく存在はそう居ない。ド派手に暴れ、破壊の限りを尽くし、数多の戦果と膨大なお金を旋律大罪衆に齎し続けているが、その人相すらもバレていない。恐らく、板菜がそうであると指摘しても、大抵の奴が鼻で笑うし、板菜もそれを隠した方が良いから隠すだろう。だからこそ、勘づいても気付く者は居ない……筈だった。
小守はそれに気づいた人間だった。
始めは殺そうかと考えたが、殺そうとした時に限って必ずと言っていい程邪魔が入り、殺す事すらできず、あの時が来るまでずるずると長い関係を持った。
正直な話、小守も恐らく当時は裏社会の人間だ。そもそも特殊業務局の大半は裏社会出身。だからこそ、犯罪組織が行う大規模犯罪を得意とする者達が多く所属しているし、犯罪組織の犯行を事前に食い止めたり完遂前に阻止できる手腕を持つ者が多く居る。
だとしても、裏社会の人間ですら大抵は板菜が裏社会の人間である事を気付けないのに、それに気づけるのだから、只者ではないのは確かだし。小守を逃した組織はとんでもない逸材を逃したとハッキリと言える。
(ぜってぇに後悔するだろうが……それでも殺しておくべきだった。たかだか二つの特異性如きであそこ迄良いようにされるとはよ。)
憎き特異性の名前と、その力を思い浮かべる。
現象型特異性【強制執行型運命の赤い糸】と、同じく現象型特異性【反転感情は本音かもしれない】。
その効力は。
「夜ぅ?」
「……あ?」
思考が中断される。
小守が不思議そうな表情を浮かべ、此方を見ている。
手には板菜が食べた肉団子の串。
「……態々戻ったのか。結構距離あっただろ。」
「確かにあったけど……気になったし。それより、どうしたの?ぼーっとしちゃって。他の人の迷惑になっちゃうよ?……寒いなら、上着貸そうか?」
「いや……大丈夫だ。」
はっきりと断る。断らねばならない。
きっと受け取ってしまえば、この夢幻に溺れるだろうから。
「……食べな。」
「え?あ、ああ……。」
溺れてはならない。
周りの人が幾ら特異性のせいだと、あれは理不尽だからお前は仕方ないんだと、お前のせいじゃないんだと。
そう、言われたとしても。
(あの時、確かにわうを傷つけたのは、俺だ。)
今でも、あの死んだ目と表情を浮かべた小守の姿が忘れられない。
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