第20話 後悔の残響(2)
中瀬は今、板菜と小守と共に市場区に来ている。
喫茶店アルカナに行きたがった小守だが、中瀬から今日は定休日だと告げられると残念がり、市場区に行きたいと言った。
どこか気まずいのだろう板菜を気遣ってか、もしくは別の理由でか。
小守は中瀬もつれて市場区でショッピングをしようと誘ってきた。
少し悩んだ中瀬だが、此方を見つめてくる板菜の圧に負け、その誘いに乗る事にした。
「ねぇねぇ、これ、似合う?」
「良いんじゃねぇの。」
「ちょっとー!もうちょっと悩んでくれたって良いんじゃないの?……これとかは?思い切ってスカート。」
「あー……お前、あんまりスカートの類着ないもんな。良いんじゃねぇの。でもちょっと短すぎないか?」
「そう?じゃあこっちは?」
「あー……うん、良いんじゃね?でもこの色あんまり似合わねぇな。」
小守は次々と色々な服を見せ、これはどうだと板菜に見せていく。
あまりファッションに頓着しないのか、分からないからか、板菜の反応は薄い。
だが、何とか話そうと絞り出している。
小守もそれを分かっているからか、あまり反応が良くない板菜の様子に対し本気で怒る素振りも無く、軽く揶揄う程度で済ませ、次々と服を持ってきてはどうだどうだと見せていく。
(いいのかな。この服、買うとしたら多分板菜さんだけど。)
酷い別れ方をしたらしい小守の事を大分板菜は後悔していたようだ。
どうしてこんな事態になっているのか分からないが、今の板菜の立場と小守の立場を考えると、この奇抜な状況でない限り、もう二度とこんな風にならないかもしれない。
よって、明らかに可笑しい状況なのにそれを指摘する勇気も無く、夢幻のような状況であるが故に小守の願いは叶えてやりたい。だって、もう二度とこんな状況にならないかもしれないから。
「ねぇねぇ中瀬ちゃん。」
「どうしたんですか?小守さん。」
「これはどう?」
「良いんじゃないですかね。春っぽい感じがして素敵です。」
「んふふ。ありがとー。全く、さっきから春っぽい感じの服を選んでいたのに夜、それに一切気付かなくってね?」
「悪かったよ……小守。」
「あれ?わうって呼んでなかったっけ?」
「……ああ。うん、そう、だな。そうだったな。」
どこかぼんやりとした様子の板菜は、何かを思い出すように返事を返す。
その返事すらも何処かぼんやりとしている。
さっきまで何も分からないが故に反応が薄かったが、これはそれではないと感じ取ったのか、小守は少し心配げだ。
「夜?」
「……なんでもねぇよ。そろそろ、飯でも食うか?正午過ぎたしな。おなか減っただろ。」
「ああ、うん……。」
「高い所か美味しい所が良いです。」
「おま、中瀬………。」
「ああ!確かここら辺にぃ……あった、食賛区より、春食フェスティバル!五十店舗を超える屋台が第三祭り広場にて出店!ここいこ、高くて滅多に食べれないやつから、美味しいものまで勢ぞろいだよぉ?」
「おおー!ここ、ここ行きましょう、板菜さん、さぁ!」
「急に元気になったなお前ぇ!?わうも此奴を調子乗らせるんじゃねぇよ……。」
ファッションに対して興味が無い中瀬がご飯の話になると急に元気になり、要求をする。ここ最近貯金している中瀬に使えるお金は少ない。だからこそ、たかれるのであればたかる。
流石の遠慮の無さに抗議の声を出そうとした板菜だが、小守は良い提案だと言わんばかりに声を被せ、食賛区が市場区の第三祭り広場でやっている春食フェスティバルの話を持ち出す。端末で場所を示すと、中瀬がそれを見てから端末を持っている小守の右手を突き出し、その画面を板菜に見せつける。
これを食す。
そういう確固たる意志を持っている中瀬と小守を前に、板菜は頭を抱え、結局承諾した。
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