第19話 後悔の残響(1)

 次の日、店は定休日で、中瀬はぶらぶらと黄昏区を歩いていた。

 黄昏区の公園に辿り着いた時、ベンチに座っている二人組を見て驚きを覚える。

 そして近づき声を掛ける。

 

「こんにちは。板菜いたなさん」

「……ああ。こんにちは。」

「おや?かわいらしいお嬢さんだね。こんにちは。」


 金髪の男性とボーイッシュの女性だ。

 金髪の男性は板菜いたなよるという名の人で、良く黄昏区の公園のベンチに一人で座っている。大抵は夜とか黄昏時とかに座っているのだが、珍しく昼に居る。

 いや、珍しい所か、初めてだ。何時も板菜の愚痴を中瀬は聞いているが、昼や朝に行っても彼の姿を見る事は今の今まで無かった。

 そして隣に座っているボーイッシュの女性は見た事が無い。声も低く、どちらかというと男性と間違われる事も絶対ありそうな見た目だ。


「そちらの女性の方は?」

「おお。私を一発で女性と見抜くとは。好きな恰好をしていると男性だと勘違いをする人も居てねぇ……。」

「何となくそうかなぁって。」

「性別とかあんまり気にしない……生物学的性別だけを重視するタイプでね。生体構造とか、オスとメスで違うだろう?まぁ間違われてもあんまり気にはしないんだが……同性の方と居ると浮気相手と間違われる事が多々あってね。」

「カッコイイですもんね。」

「ありがとう!ふふ……夜ぅ?この子、いい子じゃないかぁ。なんで紹介してくれなかったんだい?」


 女性は批難するような声を板菜に向ける。

 それに板菜は気まずく、そして何処か後悔している表情を浮かべる。

 

「そりゃ……」


 そして何かを言いかけると、首を横に振った。


「いや、なんでもねぇ。」


 それは女性の答えのように見えて、何か自分に言い聞かせているようであった。

 女性は首を傾げるが、板菜はそれに反応する事無く、中瀬に顔を向け、手を女性に向ける。

 

「それよりこいつは、その、良く話してる」

「……ぇ、ぁ、も、もしかしてこの方が?」

「……そうだ。」

「ん~?なんだいなんだい、もしかして、私の事話しているのかい?」

「あ、あーそうですよ。疲れている時に此処のベンチによく座っていたんです。心配になって声を掛けて以降、時間があれば愚痴を聞くように。接客の練習もかねて。」

「……接客?貴方、接客業なの?どこどこ?」

「喫茶店アルカナって所です。」

「喫茶店アルカナ……へぇ。行ってみようかなぁ?」

「……そうか。」

「ちょっと!そこは俺が連れて行ってやるよっていうところじゃないのー!?」

「たかるんだろ?」

「そうだけど。素寒貧だし。」


 何を悪びれる様子も無く、女性は答える。

 その様子に、中瀬は茫然とし、板菜は彼女の首に着けられているロケットペンダントを見つめている。

 女性は再び首を傾げ、いつもよりも元気ないなぁと板菜に話しかけている。

 

 

 彼女の名前は小守おもりわう。

 板菜曰く。元カノで、酷い別れ方をし、以降会えなくなった筈の女性だ。

 生きてはいるが、こんな風に会う事は出来ない筈の女性で。今はエンブレイス警察の特殊業務局裁判権外検非違使課に所属している、裁判権外検非違使……。つまり、現役警察官。

 

 目の前にいる板菜夜の所属している旋律大罪衆と相反する存在となった筈の彼女は、板菜夜犯罪者と会う事は無いし、もし板菜夜いたなよると会ったとしても即攻撃してくるはずだ。


 

 旋律大罪衆は、この街が最も恐れる存在であり、裏議会を議長を長年務める程の実力を持つ日和国最大犯罪者勢力。

 板菜夜は、その勢力の幹部の一人なのだから。

 明らかに可笑しい状況に、板菜の正体をこっそり蛇頼から教えられていた中瀬は困惑をしていた。小守さんとも直接会話も対面もした事は無いが、遠くから見た事があるし、彼女に関する噂も聞いているからこそ、更に困惑した。


 

 裁判権外検非違使という悪名高きHSAT課と並ぶ超有名存在の一人。小守わうはその中でも、"犯罪者を絶対に許さない、特に旋律大罪衆だけは仕留める狩人"として有名だ。


 旋律大罪衆の構成員、しかも幹部である板菜夜を前にしたのであれば。

 彼女は容赦なくロケットランチャーをぶっぱなし、公園を無茶苦茶にし、国の景観を破壊してでも、板菜を仕留めにかかるはずだ。

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