第18話 ゆったりとした日を。

 墓から帰って来て、いつも通り店を開けると、四人組の人間がやってくる。


「あれ……?」


 やって来たのは、手似内、鈴一、花上、そして、黒い髪の青年。

 鈴一はあの時、風幻カルテル風鈴隊隊員を名乗っていた。

 あの時、風幻カルテルはハッキリと万仲介社へ攻撃しに来ていた筈だ。

 組織が他組織に攻撃する時、それは明確な敵対、組織間の火種となる。

 もしかして、あれから三日。穏便に事が済んだのだろうか。

 まぁ、それならばいい。


「いらっしゃいませー。カウンター席ですか?テーブル席ですか?」

「え?……いや、いつものテーブル席だよ?ほら、あの奥の。」

「……?え、ああ、分かりました。」


 手似内はテーブル席なんて利用していただろうか。

 何時も彼はカウンター席で一人飲んでいた筈だ。


「それではごゆっくりどうぞ。お水お持ちしますね。」

「ああ。あ、こいつにはお茶で頼む。」

「分かりました。」

 

 だがまぁ良いかとテーブル席まで案内し水を持ってくる旨を伝えると、鈴一が青年を指差し頼んでくる。

 それを承知し、中瀬は離れた。そしてお水を三つ、お茶を一つ置いてすぐに離れる。彼らは別に中瀬とお話したい訳でもないから。

 指された青年は指を向けるなと言う事も無く、無言でメニュー表を見ている。

 裏返してデザートの覧を見て居たり、中を開いてパラパラめくったり。

 そして青年からメニュー表貸せよと取ろうとすれば、青年はそれを断り、マイペースに自分の意見を言う。


「トンカツ定食が食べたい。あと、ミルクアイスも。」

「えー?ステーキサンドイッチの方がぁ良いよぉ?わ、た、し、の、お薦め~!」

「静かにしろ手似内。……オレは、なんだこの、ククリアコズミック定食って。」

「それ頼むのか?ボクは……シュークリームにしよう。」

「デザートから頼むのかよ、鈴音すずね。」

「別にいいだろ?あのくそ上司から解放されたんだ。風幻カンパニーも楽じゃねぇよ……。」

「大変だねぇ。まぁ?こっちはァ?万仲介社がバックについてくれたしー。お陰で仕事がやりやすいやりやすいー」

「……手似内、それは今の仕事の間の話であって。」

「分かってる、分かってるってばー。もー。」


 手似内は花上から視線を逸らし、未だにメニュー表を見ている青年に視線をやる。


「中島もそう思わない?」

「……ん?何がだ。」

「私が分かってるってことだよ。」

「ああ。分かっている。」


 中島と呼ばれた青年は短く返した。


「トンカツサンドイッチにしろという事だな。」

「違うよステーキサンドイッチにしろって話……でもないねぇ!キミィ、ちゃんとお話し聞いてー?手似内さん悲しんじゃうよ……。泣いちゃうよー?」

「そうか。」

「ハンカチを差し出さないで!泣かせる話を聞かない前提にしないで!」

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