第15話 談笑

「あ、お疲れ様です。」

「お? お疲れー。帰りは無事だった?」

「ええ。貴方が返してくれたおかげで無傷ですよ。ちゃんとこちらの要求を呑んでくれたご様子で安心しました。」

「はは、勿論。貴方の注文に応えなければ怖い事この上ありませんから。」


 あの後すぐに帰ってきた手似内に中瀬は声を掛ける。

 手にはサンドイッチが握られており、中身は分厚い肉とレタスが挟まれている。

 机の上には緑茶の入った茶碗がおかれており、ついさっき入れたばかりなのだろうか、湯気が立っている。

 襲撃に合ったばかりなのに一切の動揺を見せず、むしろ優雅に食事をしていた。

 見るからに無事である事が分かるが、一応無事であったかどうかを聞くと、蛇頼が口をはさんで答える。

 中瀬はそれを見て答える気が失せたのか、そのまま食事を再開した。

 見事な甘やかしっぷりだと手似内は考えながらも、この店の主に答える。


「すぐ帰ってきましたね。」


 中瀬はサンドイッチを飲み込んでからそう聞く。

 サンドイッチもお茶も、何事も無ければそろそろ帰ってくるだろうと考えた蛇頼によって用意されていただけのもの。

 実際には中瀬が店に戻って来てから五分も経っていない。

 だからこそ、熱々のお茶が中瀬の手元にある。


「はい、お待たせしました。シャキシャキレタスとトマトのサンドイッチです。」

「あれ、お肉は?」

「無いです。」


 無慈悲に切り捨てた蛇頼が持つ、自分用のサンドイッチには肉が挟まれている。

 

「そう……。ええと、まぁ、直ぐに片付いたからね。後は私の力でちょちょいのちょいよ!」

 

 それをジト目で身ながら、中瀬へ言葉を返す。

 

「他の人達は?」

「ああ。報告書だよ。後の二人は帰っちゃった。一人はキミと同じアルバイターだし、もう一人に至っては辻斬が出ちゃったからそっちの対処しに行っちゃった。」

「辻斬?」

「そ。人切って言った方が良いかもしれないけれど。」


 中瀬は人切と聞いて、人切ツグミという名を思い出す。

 確か最近活動している犯罪者だ。

 マフィア構成員やギャング構成員だろうが何だろうが切り殺し、歩いた道は血で出来るという噂の。

 かなり腕前も良いらしく、今でも捕まっていないし殺されてもいないらしい。

 多分恐らく手似内が言う人切は、人切ツグミの事だろう。

 むしろそれ以外でその名を名乗る人物を知らない。

 人切はある種の恐怖の代名詞だから。

 

「どうやら路上区に現れたらしくってね、私の神苑天稟を使って向かわせたよ。短期間で神苑天稟を使うの、大変なんだけれどねぇ……。」


 そういって肩をすくめる。

 確かに言われてみれば、どことなく疲れている気がする。

 

「まぁ、利便性高いですからね。」

「その分色々気を付けないといけないんだけど……あ、このレタス美味しい。農業区?」

「ええ。農業区の杭神くいがみ農園のところです。そろそろ、新しい交渉相手が欲しかったので。」

「前の契約農家さん、山月区に隠居しちゃったんですよね。」

「そうなんですよ。蛆神うじがみさんがご高齢故に畳んでしまいまして……それに、どうやら新興宗教に嵌ったらしく。」

「宵闇の黄昏?」

「いいえ。名前は忘れちゃいましたけれど……まぁ、それで移り住んだみたいです。」

「ふぅん……。」


 他愛のない雑談をしながら食事を進め、皆が食べ終えた頃になると解散になった。


「じゃあまたいつか仕事しようねぇ。あ、研修は文句なしで終わりだよ。裏社会の人物と遭遇してたいして怖がっていないし、下手に近づいて対処しようともしなかった。ああいった輩に対して慎重に対処することを選べないなら本採用は見送ったけれど。」


 そう言うと彼はさっさとビルに上がっていった。


「次はいつでしょう?」

「貴方でも出来るアルバイトですから、そうそうないですよ。」

「そっかぁ……。」

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