第14話外伝 終幕

 大量の煙は突然晴れる。

 注射器から膨大な煙が拡散された事など夢幻であったように消え去った。


「はいー! 手似内さんだよぉ! あ、アルバイターくんちゃんさんはバスに突っ込んでおいたからもういませぇーん! 残念でしたぁ! くははは!」


 中瀬は居ない。代わりと言わんばかりにそこにいたのは、真っ白いシルクハットが特徴の男、手似内が居た。

 彼はシルクハットを手に持ち、優雅にお辞儀している。ただし、目は開き、鈴一から視線を逸らす事は無い。


「手似内か。つーことは、死んだな、アイツ。減給してやるか……。」

「他の奴らもなぁ! ちゅーことで、他の奴らも減給しておいてー! 減給された殺意で"生きる意味と意思"を持ってくれるだろうしぃ?」

「はは……援軍も確定か。」


 手似内の相手をしていたアインの減給だけでなく、他の奴らへの減給を求めている事。そして、日和国を日和国足らしめる"生きる意味と意思"への言及。

 この言葉が指す事はいつだって一つだけ。

 もうすでにアイン以外の奴らも壊滅しているという事。


「ウィ! 確認済みさ。空間在所くうかんあるところ我在われあり! この言葉、忘れたぁ訳ではない、よ、ね? 忘れられたらもう悲じくてぇ! うっげへへへふーん!」


 わざとらしく腕を目元に当て大げさに泣き真似をする。

 だが鈴一からすれば、雪辱の相手がかつて言った科白と全く同じ事を言われた挙句、こうして隙を見せてくる事に大きく腹を立てる。

 すぐさま攻撃して口を開けなくさせたくはあるが……この男はそれすらあっけなく対応し、鈴一の体を切断したり、折りたたんだり、消滅させたりするだろう。

 だからこそ攻撃は出来ない。まだ手の内は全て晒していないのだから、負け戦に態々使う必要はない。後ろにもう居るから。他の奴らと違って武器を使う必要も、それこそ最悪手を使わなくても良い奴が。

 

「お前、そんなキャラだったか? あと泣き真似辞めろ、腹立つ。」

「うん! あれからもう結構時間たってるし? 少し位違うよ違うよーは、当然さ。もういいよね? 良いよねぇ?!」

「……確定事項だろ。あいつと言い、お前と言い。」

「YES! If weもし私 kill aたちがcomplete stranger誰かを殺す事が出来るなら,we can kill neighbor私たちは隣人を殺せるだろう! ……良い言葉だと思わない? 私は思っているよ。」

「ああ……本当にな。」


 そう呟いたと同時に、体を貫かれ、横に切られる。

 そしてぐしゃりと潰される。


「いやぁ、超再生の可能性もあるからねん! じっくり、ちゃんと、潰させていただきますわ! おっつー、ドヴェー。」

「……。」


 ドヴェーはそっと静かにお辞儀をする。


「あれ? もう終わっちゃいましたかぁ?」

「何だ……嫌な予感がしたから急いできたんだが。というか、お前、遠く飛ばし過ぎだ!」

「ごっめーん! 赦して? まぁ、今回ばかりは間に合わなくてよかったと思うよ。」

「あ? ……まぁ、お前が言うならそうかもしれんがな。というか、中瀬は? ……潰したのか。」


 その後にクベラと花上がやってくる。

 クベラは歩いてきた為か息を荒げた様子も何もないが、花上はその真逆の様で全力で走ってきた為に息が少しだけ乱れている。

 花上はそれに文句を言いながら辺りを見渡し、そして中瀬が居ない事に言及する。その表情は何処か心配げである。


「ああ……バスで返したよ。丁度良いバスが引き返しかけてたからね、連絡入れてぶち込んだ。多分、喫茶店でお茶でもしてるんじゃない?」


 そう言って、さっさと帰ろと声をかける。

 彼らは何事も無かったかのように、拠点のある空風ビルへと戻っていった。

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