第12話 帰りは

「ふぅ……」


 ふと意識が戻った時、中瀬は黄昏区に行く為のバス停まで戻っていた。

 遠くから、戦闘音が聞こえてくる。中瀬が万仲介社の者達と一緒に探索していた所だ。

 ここまで逃げれば後は大丈夫だろうと眼鏡をかける。

 初っ端から犯罪組織とエンカウントするとはと思いはしたものの、このアルバイトを続けるのであれば、慣れねば成らぬだろう。

 天授者ではあるが戦いを習ったわけでも、神苑天稟が戦いの力でも無い中瀬にとって、犯罪者と出会う事、そして犯罪組織と出会う事はなるべく御免被りたい事だ。


「バスは……10分後か。国民カードは無くしてない……よし。すぐさま乗れる。」


 日和国内の公共交通機関は国民カードが必要だ。公共に関する全ては国民カードで決済される。

 廃墟区には企業によって運行される交通機関は無い。

 利用客が訳ありと公務員位だから、利益があまり見込めない為である。

 その為、廃墟区と他の区画をつなげる全ての交通機関は公共のもの、もしくは、自前の移動手段である。

 自前の移動手段を持っている訳ではない中瀬は、国民カードを無くせバスに乗る事が出来ない。即ち、徒歩で帰る事になるのだ。それだけは何としても避けねばならない。

 幾度となく眼鏡を外してはカードを無くしてきた中瀬にとって、これこそが一番の不安であったが……今回は問題なくカードを持ってこれているようだ。


 そして、国民カードを確認し、確かに閉まった時。


 足元に何か落ちている事に気付いた。

 それを確認する為、しゃがんだ時。


 後ろから銃声が鳴り響いた。


「え?」


 一体誰に向かって発砲されたのだろうか。

 そういった事は態々考えるまでも無い。

 間違いなく中瀬自身に撃たれている。

 どの部位に向かって撃たれたのかまで分からないが、しゃがみこんだ中瀬にあたっていない事を考えると、恐らく頭か心臓だろう。

 中瀬を殺すべく、確かに仕留めにかかってきている

 万仲介社はまずありえない。もし中瀬を殺せば、高確率で蛇頼は万仲介社の敵に回る事になるし、そもそも純粋に犯罪歴が無く犯罪者でもない中瀬を殺すメリットなんてない。背後に何者かが居る訳でもない事を、そもそも理解している筈だ。

 となれば、手似内が言っていた風幻カルテルとやらだろうか。しかしそうなると、荒事に慣れている万仲介社から何らかの方法で逃れている、もしくは既に倒した事になる。となると、血の匂いだとか、そういった特徴的なにおいがする筈だ。それに、遠くから聞こえてくるあの戦闘音はまだ止んでいない。

 では一体誰が撃ったのか。

 その答え合わせはすぐに行われた。


「おいおい……今の避けるか? 普通。」

「……誰です?」


 黒いスーツに、緑のジャケットを身に着けた男。

 口元周りは分かれど、目は鴉の仮面で覆い隠されている。

 彼の右手には、拳銃が握られている。

 その拳銃の銃口は、中瀬に向けられている。

 まぎれもなく彼は中瀬に向かって撃った張本人だ。

 

「……まぁ、どうせ殺すしな。」


 そうぼそっと呟くと、 彼は声高らかに名乗り上げた。


「ボクは風幻カルテル風鈴隊隊員、りんone。貴方を死地へ送る旅路の案内人です。」


 そういって礼儀正しくお辞儀をし、再び顔を挙げた時、銃口を中瀬に向けた。


「では、さようなら。」

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