第11話 出会い

「えっと……ズドラーストヴィーチェ。」

「ずど……ずど、らーすと、ヴィーチェ。」

「あ、どうも。……良かった、話が通じそうな人達です。」


 白い髪の青年の青年が聞いたことのない挨拶をし、中瀬がそれに答えると、安堵したように返答を返した。

 しかし、黒い髪の青年は中瀬達を警戒をし続けている。何処かそれを隠そうとしている気がするが、恐らくそれは警戒している事を悟られぬ為だろう。中瀬は気づいていないが、万仲介社は全員それに気づきつつも、それを指摘する事はしなかった。


「あー、えーっと……ボクは極冬地の民、レオ・べズー・トルストイです。こちらの黒い髪の方は、同じく極冬地の民、ニコ・アカーキ・ゴーゴリ。」

「ご丁寧にどうも。万仲介社正社員、花上結だ。お前たちは一体なんの様だ?」

 

 白い髪の青年、レオ・べズー・トルストイと名乗った彼に直球で聞くと、苦笑しながらこう答えた。

 警戒されているという事が分かっているのだろう。


「ボクたちは探している人が居るんです。新聞で、特異性物質が見つかったって聞いて。彼、珍しいモノや特異性物質をよく集めていたから、ここに来たら会えるんじゃないかって駄目元で来ていたんです。……ここに誰か、来ていませんでしたか?」

「いや、残念だが、オレたちはお前たち以外を見かけて居ない。」

「そうですか……。」


 手短に返答すると、がっくりと肩を落とす。ニコも黙ってやり取りを聞いていたが、何処か落胆しているように見える。


「ではこちらからも質問を。何か、特異性物質とか、奇妙な物を見かけていないか?日和国からの依頼で確認作業をしている。」

「ああ。新聞で出ていましたからね。でも、新聞って大げさなのが大半じゃあないですか。もしかしたら釣れるかもって思って探してましたけれど、それらしいものはありませんでしたよ。だよね?ニコ。」

「……ん? あぁ、確かにそうだな。」

「……ニコ?」

「なんかやってくるかも。」

「……え?」

「……。」

「あ。中瀬ちゃん、それ本当だよ。」


 急に変な事を言い出したニコの発言を、手似内が肯定する。中瀬が驚きを浮かべる中、ドヴェーは手をまっすぐに胸の前に持ってきており、ジッとニコ達が来た方向とは違う、崩れた壁の方向を見ている。花上もジッとそちらを見ている。


「誰か来ている。……足音がしない。呼吸に乱れ。だが、何も音がしない。」

「何もしてないのに、乱れている?」

「匂いが酷い。クスリだな。それも違法薬物の類だろう。」

「恐らく。でも結構ハッキリしている。明らかに体は変なのに。」

「そも足音を消せているし、気配だってかなり消せている。此処までハッキリと動けている点を見るに……。」

「……中毒性のある、誰かに売るような奴じゃないね。多分、身体強化系統。となると、裏の奴ら。でも裏議会戦争が起きそうな時に、中毒性のない身体強化系統のクスリを使うなんて無駄以外の何物でもない。となると、風幻カルテルかな。」

「多分。」

「あそこなら裏議会戦争参戦しそうだけれど……戦力にあまり余裕がない。狙いに来ても可笑しくないだろう。」


 そう淡々とドヴェーと手似内と花上は話していく。ニコとレオは困惑しながらも「逃げた方がよさそう?」「逃げてもいいですか?」「うんいいよ」とさりげなく手似内から逃走許可を貰い、自分たちが入った入口から慌てて戻っていく。


「多分、此処に特異性物質は無いね。全部、今行ける所で確保できる奴は一通り確保できている。中瀬。」

「あ、はい。」

「一人で逃げる準備は。」

「何時でも。」

「宜しい。では今回は此処で解散。眼鏡外していいよ。」

「……え。」


 手似内が遠回しに神苑天稟をフルに使い逃げろと言う。

 神苑天稟も眼鏡についても、話した覚えはない。天授者である事は話した覚えはあれども、どういった力を持っているかは言っていない。

 

「眼鏡? もしかして眼鏡が"神天者しんてんじゃ"」

「違うよ。 まぁ、そこそこ事情は把握してるし。」

(神天者?)


 花上が肩の鳥を見ながらつぶやくと、手似内がそれを否定し、シルクハットを掴み、少しおろす。

 神天者とはとなったが、急いで逃げなければ此処は戦場になるだろう。中瀬は眼鏡を外し、自身の存在という存在をいつも通り消していく。



――――また厄介事に巻き込まれたんですね。

――――平穏無事に生きてほしいのですが。

――――まぁ、それで生きれるならば、誰しもがしています。

――――ここは少々騒がしすぎる。

――――さっさと家に帰りましょうか。


――――匿名希望。


 呆れた妖しげな声を最後に、中瀬という存在が消える。



「……む。こんなに早く逃げれるのか。葦原あしわらの神苑天稟と同じ力か?」

「いや、そこにまだいるよ。……凄いな。私でもおぼろげにしかとらえられない。認識阻害? というよりも世界と同化している? 背景みたいになる? ……あぁ、完全にとらえられなくなった。ヤバいな、この力。そりゃあの女郎蜘蛛も確保したがる訳だ。」


 ぶつぶつと手似内は呟きながら、コホンと大きく声を出し、ドヴェーが睨みつけている崩落した壁の方を見る。


「さて! そこにいる野蛮な方々?さっさと出てきたらどーでしょー、か! じゃないと、強制的に出させちゃうー、ぞ☆」


 そういって指差すと、観念したように、四人の人間が出てきた。

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