第10話 調査(2)

 何の説明もしなかった手似内、結構丁寧に裏事情も明かしてくれた花上、ニコニコしている毘沙門天似、沈黙のドヴェー。

 正直な話、中瀬はかなり心配していた。今回のアルバイトである廃墟区の依頼についてちゃんと理解していそうな人物が花上結ぐらいだったからだ。

 手似内に関しては論外だし、他の二人はニコニコしているだけの人と、黙っているだけの人だったから、というのもあるのかもしれない。

 花上と中瀬との間で交わされた依頼内容に関する話題も他三人は一切言及しなかった。

 だからこそ、かなり心配していたが……。

 良く考えずとも、彼らは万仲介社正社員。

 今まで遍く修羅場を潜り抜け、どんな依頼も達成してきた。

 そんな彼らが確認作業、何かあれば確保という依頼なぞ、簡単と言わずしてなんと言うか。


「ここは無いですね。」

「ここも無い。」

「んー………はい! ここに何もありません。中瀬さんはどうです?」

「あ、此方も無いです。」

「……。特に敵対反応無し。」

「じゃあ次行きましょう。」


 どんどんどんどん、初見の場所を進んでは、探索を手早く行う。

 恐らく、昔は防犯システムとして使われていたであろう戦闘用のロボットやら配置するタイプの自動銃撃装置なども、ドヴェーが破壊という形で無力化していく。

 そこに一切の滞りは無い。むしろ、その手早い探索についていくのがやっとだ。



 手似内は空間を操る神苑天稟の持ち主だけあってか、場所だけしか知らされていない、調査する廃墟内部の地図をあっという間に書き上げた。

 廃墟区はそれこそ、第六次神苑天稟大戦中に放棄されたもの。

 1990年から2000年まで続いたあの大戦中、大体1998年頃にだったかに放棄され、そこから28年間、今に至るまで放置され続けた。

 たかが28年。人によっては百年前つい最近ではないから問題ないだろうと、お前は何処の長命種だと言わんばかりの発言をする人もいるが……。


 残念な事に2020年まで。つまり、六年ほど前まで。

 廃墟区は22年の月日を凡そ六倍の時間、即ち132年という年月を経過させている。

 そこから4年後なので、プラス4年の136年。

 即ち、廃墟区は他の区画が百年も経過していないというのに、廃墟区だけは百年以上の年月の積み重ねを持っている。

 その事態を確認し、議会が内部の住民達を救助するのに時間は廃墟区限定という意味合いではかなりかかっている。

 その事態を引き起こした『通常の時間より六倍速く経過させる六倍速時計』という特異性物質は確保し、ワイン用の倉庫送りになったり、その特異性を一部解明し、時間圧縮鍋という調理器具に変貌を遂げたが……。

 早死にするという印象を持ってしまったこの区画に住む人は居なかった。

 一人一人ではなく、次々と波のように多くの人が其々の区画に散らばり、この区画には誰も残る事は無かった。


 そうして放棄され、28年間という132年と4年の月日が経てども、この廃墟区は依然として廃墟区のままであった。

 しかも、廃墟区は他にもいろいろな特異性を有しているらしく、地図という地図が一定期間ごとに機能しないのだ。

 時間だけなく、空間にすら支障が出ている。

 だからこそ、探索はままならないのだが……。


「手似内がこの依頼に参加する事になったのは、あいつの持つ神苑天稟、『種無き手品』だ。というか、正直な話、手似内、毘沙門天似、ドヴェーさえ居れば、オレらは必要ない。」

「優秀なんです? 人の話とか、聞きそうにないですけど。」

「毘沙門天似は居るだけでいいし、ドヴェーは元々護衛担当だ。だからいざという時の説明兼交渉担当のオレが居る。お前に関しては……正直な話、手似内が連れてきた以外良く分からない。天授者、なんだよな?」

「ああ、そうですよ。」

「……あの店長もそうだが、何故天授者が喫茶店やっているんだ。天授者って例え神苑天稟が戦闘向きでなくとも、弾丸素手で受け止めたり壁ぶち抜くわ、時速160㎞の車に突っ込まれても多少ケガするですむわ、プールを血で満たせる程血を流しても生きてるわで身体のスペック高いだろうに。」

「凄く極端ですな!? 流石にそこまでじゃないですよ。それ多分、戦場産まれだとかで体の使い方分かっている人達だと思いますよ。後、超級神苑天稟持ち。神苑天稟の"格"が高くないと精々人よりちょっと頑丈位です。壁ぶち抜きクラスとか極一部ですよ。」

「あ? そうなのか……でも知り合いが基本それなんだが。だからてっきりオレは貧弱なのかと……。」

「えぇ……。」

 

 空いた口が塞がらず中瀬は少し後退る。真面な人かと思いきや、全然そうではなかった。むしろ、明らかな人外魔境の領分に入っている連中相手に戦えている凄くヤバい人であった。

 その様子を見た花上が急いで弁解をしようと口を開いた時。


「誰か来る。……敵対はしていないが、何かを探している。」


 警戒しているドヴェーによってそれは遮られる。全員が耳を澄ませると、二人ほどだろうか。コツコツと音がする。

 全員が一旦警戒し、ドヴェーが見つめる方向にある出入口を見ると……


「あ、あれ……ニコライ、なんか人居るのだけれど。」

「え? マジです?」


 困惑した声を出した白い髪の青年と、少し焦った声を出した黒い髪の青年の二人組がやって来た。

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