第12話外伝(四) 空虚の新人と充実の王

「あーしの相手は……あんたかー。よろしくねぇっと。」

「おっと。結構物騒なんですねー。」


 ピンク髪の女は相手が毘沙門天似である事を認識するや否やカッターで切りかかる。それを宝棒で受け止め、押し返す。

 たたらを踏む事無く、後ろに下がり、カッターを構えなおす。


「いや、おたくら程ではないと思うよ?」

「うーん……そんなに物騒ですかねぇ。」

「元々が議会と裏議会の衝突を物理的に仲介する所でしょー? 万仲介社は。」

「それは万仲介社の元となった"エンブレイス仲介社"ですね。その業務は全て今の警察機関であるエンブレイス警察とエンブレイス交番に"限定法規超越型権限委託"で受け継がれる事になりました。今の万仲介社は"頂天探偵達"や"調停委員会"などの機関と同じ立場になっています。」

「ふぅん……難しい事は分かんないや。」

「ならば、分からなくてもよろしいですよ。」

「ところで……。」

「はい?」

「攻撃してこないのは、強者の余裕?」

「いいえ。攻撃しないのであればそれで結構ですから。万が一があれば、他の三人がどうにかしてくれます。ドライさん。」

「……あ"?」


 ドスの聞いた声がドライと呼ばれた女の口から漏れ出る。

 それもそのはずだ。名乗ってなんかいない。

 他の奴らは律義に名乗ったり、もしくは元々知られていたりする。

 しかい、天授者でもなく、古参でもない新参者であるドライの名など、知る者はそれこそ内部の人間だ。


「あれ? もしかして……当たりましたかね。」

「……あてずっぽう?」

「はい。ボク、運が良いんです。」

「あてずっぽうで、ピンポイントで、ドライ。」

「はい。ボクならば可能ですから。」

「んな言い分通る訳……!」

「通りますよ。ほら。」

「は?」


 突然、何の予兆も無くドライの頭上から爆発が起こり、天井が落ちる。


「う"がぁ"!?」


 天井のコンクリートに埋もれるドライの頭に、たった1つの本が落ちている。

 本のタイトルは、「ライゼン博士のレンチン一〇〇選 時間短縮一〇分調理編」。

 この本が出版されたのは……廃墟区単位で百程前で、著者であるライゼン博士も死に、この本の著作権も切れている。


「あぁ! これです、これ! 丁度ほしかったんですよねぇ。」


 毘沙門天似クベラが持つ神苑天稟の1つ、【福徳の王ヴァイシュラヴァナ】。

 物質的なもの、それこそ金銀財宝から何までを引き寄せる力。

 物質的な幸運を齎す力で、このような理不尽且つ不自然な方法で呼び寄せる事もあれば、ごく自然な形で手に入れる事もある。

 クベラは戦いの神苑天稟を持つが、今回の依頼でクベラに期待されていたのは、戦闘面ではなく此方の力。

 クベラさえ居れば、特異性物質という物質的なものの確保など容易い。

 だからこそ、クベラは今回の依頼に組み込まれた。

 ただ、それとは別件でクベラには目的があった。


 それこそ、この幻のレシピ本、レンジで十分以内に調理が完了するレンチンレシピブックである。


「通りで見つからないと思いました……。今回の捜索範囲外だったんですね。でも、やっぱり手に入ったので、ボクってば幸運者です♪」


 そしてその本をドライの頭から取り上げると、宝棒でドライの頭を貫き、多分こっちだろうと何となくで行先を決めた。

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