第12話外伝(三) 切る者と切る者
「……ほう。己の相手は汝であるか。
「……。」
青髪の琥珀目の男は、ドヴェー・カーリーと相対する。
手には短剣を持っている。対してドヴェーは指を閉じ、手をまっすぐにしているだけだ。
「話は無用か。ならば良し。……しかし、己だけ一方的に知っているのは些か」
「貴殿はツヴァイ。知っている。あの時以来と言えよう。」
「……かの
「人切カレンと
「あの一戦をそう評して貰えるのは光栄の極み。そして、汝とこのような機会を得られた事も叉歓喜の極み。故にこの一戦、全力を尽くさせて貰う。」
「然り。これ以上の言葉は不要。」
そう最後にドヴェーが言った瞬間、ツヴァイは短剣を思いっきり空に振る。
明らかな空振りだが、ドヴェーはそれに何の疑問を抱く事無く後ろに飛ぶ。
ドヴェーもツヴァイにも一切の傷はない。
ツヴァイの不可視の攻撃を冷静に見破り、避けに転じたのだから当然である。
ツヴァイの神苑天稟【
ナイフや包丁、カッターなどの刃物を使用する事が前提だが、そういった刃物を使えば空間を無視して切断が出来る力。
例えば、壁の向こう側に居る相手を壁を切る事無く、相手だけを切る事が出来る。本来"切断"という現象を別の地点で"切断"という現象を移す事によって、そういった事を可能にする。
勿論、そういった壁越しの攻撃をするには相手の場所を把握する実力も必要になるが、こういった、何の遮蔽物も無い空間でならば相手の位置確認など容易い。
ツヴァイの攻撃は確かに見られるのに、何処を攻撃されるのか分からなくなるから、不可視となる。
(流石。その腕前、衰えなく、美しい。)
しかし、その不可視の攻撃を難なく、冷静に最小限に避ける。
一体どれほどの人間が、一見簡単に見えて難しいコレを出来るのだろうか。
口には出さない。出す必要性すらない。そんな暇など無いから。
避けられたのならば、次は此方の番だ。
ドヴェーには武器は無い。手をまっすぐにしているだけだ。
それだけだが、それだけで十分脅威だ。
ドヴェーは後ろに下がり避けた後、すぐさまツヴァイの目の前に現れ、手をそのままツヴァイの腹に突き刺す。
刃物ですらない手で突き刺したとて、普通体に風穴があく事はまずない。
幾らドヴェーが天授者であれど、ツヴァイもまた天授者。
天授者ではない者であるならば、十分あり得た。
しかし、天授者同士ならば、まず風穴が素手で開ける事は無い。
のにも関わらず、ツヴァイの体は確かに、刃物か何かで貫かれる。
貫いたのは、手だ。紛れもない、手だ。
手が刃物に変じた訳でもなく、確かに手がツヴァイの体を貫いている。
「……見事。」
刺した手はそのまま綺麗にツヴァイを横に切った。
「……再び、相見えようか。」
倒れたツヴァイを見下ろし呟くと、ドヴェーは音も無くその場を去った。
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