第12話外伝(二) 面倒くさがり屋と鼻鳥人
「あれー? フィーアはー、貴方のお相手なんですねー。」
水色髪赤目の女と花上は互いに相対している。
先ほどまでいた場所とは違う、別の廃墟だ。
近くには噴水の音が酷い匂いと共にやってくる。
女の手にはナイフが握られており、花上の手にもナイフが握られている。どちらも遠距離から攻撃できそうなものはない。
花上の肩に居た鳥、クンペルは肩から離れ、羽ばたき、女の方を睨みつけている。
「……オレは、万仲介社正社員、花上結。名を名乗れ。」
「えぇ……かたっくるしい人だなぁ。」
「では、くたばれ。」
容赦なくナイフを突き刺す。
女はひらりとそれをかわすと、少し不満げな声を出した。
「ちょっとくらい、待ってても良くなーい? フィーアのことー」
「フィーアとは誰だ。」
「フィーアの事だよー。フィーアはねぇ、フィーアっていうんだー?」
「おまえの事か。」
「そーだぁーよぉー。……それにしても、貴方は天授者さんですかぁ? とんでもない速さで突き刺しちゃってぇ……。SSD-09使ってなければくたばっちゃう所でしたよぉ……。」
「くたばれば良かった。」
「酷いですねぇ……。」
フィーアはくるくるとナイフを手で遊ばせるだけで、攻撃をせずダラダラと話している。
花上はその様子を見て、首を傾げる。
「おまえは、何がしたいんだ?」
「何?」
「ああ。ナイフという明確な凶器があると言うのに、攻撃すらしない。その様子だと、おまえは天授者ではないが、風幻お得意の違法強化薬物を使い身体能力だけは同等の力を手に入れている。そうだろ?」
「んー。そうですよぉ。だってあの新聞出た後の廃墟区に行くって高確率で天授者と出会うじゃないですかぁ。使わないとさっさと殺されてオシマイですよー。自殺願望者ってわけではないのでねぇ~。」
だとしたら、猶更分からない。
戦う事が前提で、それを本人は理解している。
なのに、戦おうとすらしない。
「知りたいです~? 別にお話しても良いですけどぉ。」
「じゃあ話せ。」
「はぁい。……理由は簡単、面倒だからですよ。」
「面倒?」
「はい。……嘘偽りないですよ~。信じてもらえるかは知らないですけれどもぉ。」
面倒だから。
いたってシンプルな理由。
戦える下地も武器もあると言うのに、本当にそんな理由で?
そう一瞬疑いをかけるもすぐに霧散する。花上には分かる。
花上の神苑天稟、【寡黙の鼻】。五感の1つである嗅覚を良くする力。そして、匂いから色々な事が判別できる力。人の匂いから、感情であったりだとかの精神的なものから、何処にいるのかだとか、肉体が疲れているだとかの物質的なもの。そういった判断を行う事が出来る力。
だからこそわかる。フィーアは嘘をついていないと。
「……では、他の奴らの所へ援軍に行っても良いな?」
ここが何処か、花上は理解している。
【寡黙の鼻】で大体他の者達の居場所も分かる。
戦う気が無いのであれば、さっさと加勢しに行った方が良い。
それに、なんだか嫌な予感もする。
「んー……それは困る。ちゃんと引き止めなくちゃだからぁ……。怒られちゃうんですよねぇ~。」
「……じゃあ、これならどうだ?」
「んぇ?」
フィーアが首を傾げた瞬間、いつの間にか背後を取っていたクンペルが器用に嘴を使い、何かを射す。
急に眠気が来て、フィーアは前から倒れこむ。
「ふむ……流石、鬼宴病院。睡眠薬への対抗があるであろう人間ですらあっさり眠らせるとは。」
クンペルは旋回し、花上の肩に止まり、軽く羽繕いをする。
他愛もない。一仕事終えた。そう言いたげだ。
「……さて。あっちか。」
初っ端から面倒事に巻き込まれたアルバイターの香りと、風幻カルテルと同じ香りと硝煙の香りが混じった、フィーアと共に居た三人とも違う香りを漂わせる人のいる方向へ走り出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます