第3話 中瀬七氏(3)

 お使い自体簡単に終わった。

 そもそも黄昏区は第四住居区と呼ばれる位には住民が集まっている。

 それほど住みやすい、それは日和という場所にとって平穏無事に暮らせるという事だ。つまり、ごろつきや不良に絡まれにくいということ。

 他の区画でお使いに行くよりも遥かに簡単だ。

 注文証明書を渡し、お菓子の入った箱を受け取る。

 少し上質な箱だ。綺麗なガラで、中瀬ならば絶対に買わないような代物。


(万仲介社は良く破壊しているから素寒貧なとこだと思っていたけれど、違うのかな?)


 まぁ、どうせ関わりようがないしとそこで思考を止める。

 深入りしない事が吉だと、蛇頼や水無瀬も良く言っていた。

 実際問題、そうなのだろう。

 中瀬自身も何回か事件に巻き込まれている。

 神苑天稟を使ってさっさと逃げたりする事もまぁまぁありはするものの、基本的には警察や交番員のお陰ですぐさま助かっている……いやなんかむしろ、警察が介入した方が被害拡大している気がしなくも無いけれど。

 兎にも角にも、事件に巻き込まれているが、その事件に巻き込まれている理由の2割は深入りが原因だ。残りの8割はそこに居たからが理由である。

 不可抗力と理不尽性を除けば、深入りさえしなければ事件に巻き込まれる回数はグッと減る。

 ならば、そうした方が良い。

 中瀬は別に依頼で動く何でも屋でもなければ探偵でもなく、警察でもなければ交番員でもないし、鬼宴病院に属する医師でもない。

 巻き込まれる必要性は一切無い。




 そう。

 暮らしていく上で危険な事をする必要性はない。

 事件に巻き込まれないで済むなら住みたい。

 きっと、日和都市だとか日和街だとか日和府とか日和県とか、呼び方があまり安定しない事に定評のある日和国という場所に住んで居る住民達の大半は思っている。

 出来る事ならば、平穏無事に過ごしたいと。

 日本の統治下に比べれば、色々なものが遥かにマシと言える。税金もややこしいからと住民税だけなので、働けば働くほど裕福になる。その分、福利厚生は別途にある福利厚生税(自主選択制)で払わなければ、自腹で大金を用意する必要があるが。

 それに、日本がかつて欲しがり、結局放棄した大量の特異性もある。害もあるが、上手く使えば益もあるものだ。

 国は害にだけ目を向けたが、日和国は意地でもこれと共生する必要があったから、害益全てを見た。そして日和国の住民達は、それと上手く付き合う事が出来た。無理な所は無理だったけれど、共生できるならばそうした方が良いし、実際出来た。

 そう、日和国はなんだかんだで良い所だ。

 物騒な所もヤバい所もあるけれど、良くも悪くも、それらは何処にでもある事だ。

 そう。



「ここら一帯は我々が占拠しました。此方の指示に従ってください。」


 犯罪にさえ巻き込まれなければ、日和国は本当に良い所なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る